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国債買入れオペのスケジュール例(1/31会合のもの)

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 YCCはマネタリーベース増加目標のような短期決戦型ではなく、2014〜16年のようなデフレ気味が続く限り、かなりの間にわたって市場から国債を枯渇させることなく緩和を継続することが可能である。代わりに、金利が大きく変化するような場面には弱い。金利が上昇しようとする場面では日銀は買支えをしなければならず、マネタリーベースが膨らむためより一層インフレ期待が上がる。逆の場合はマネタリーベースが未達になるためデフレ要因となり、一層金利低下圧力が高まるという、不安定系である。

 また、(まだ温存されている)マネタリーベース目標とYCCの両立は理論的に難しい。短期金利と異なり長期金利は基本的に長期国債の買い・売りのオペレーションによってしか操作できないため、金利目標に向かって長期金利を操作する時には実弾のお金が動き、マネタリーベースが変化する。長期金利が目標の近くにあり、かつマネタリーベースの増加ペースも目標通りである、という状況を作るにはかなりの幸運を必要とする。今のところ、金利の目標にもマネタリーベースの目標にもそれなりの余裕(金利では±10bpまでは放置)を持たせることによって乗り切ろうとしているようだが、限界が来るのも時間の問題だろう、とマネタリーベース目標の撤廃や柔軟化(テーパリング)が話題になっていた。

 テーパリング懸念が一気に具象化したきっかけは、日銀による買い入れオペの恣意的なスキップである。マネタリーベース80兆円増加を具体策に落とし込むと、日銀が保有している国債の償還の再投資も加えて毎月80〜100兆ほどの国債買い入れになり、これを月8〜10回程度の買いオペレーションで賄っている。国債を1年以下、1〜5年、5〜10年、10年超、物価連動債と分類した上で、毎回数セクターを買い入れており、どの日にどのセクターを買い入れるかは当日発表である。しかし、国債入札や政策決定会合の日はオペをやらない、国債入札の次の日はその年限のオペをやる、など細かい暗黙ルールがあり、さらに毎月の年限ごとの回数も決まっているため、クロスワードのように逆算していくと投資家にとってスケジュールのおよそ8割程度は予想でき、コンセンサスができている。これに対して変化球を入れてくると金利のボラティリティ要因となる。

 1/25ではコンセンサスとされていた1〜5年の買い入れがスキップされ、その結果この年限の買い入れ回数はいつもの月間6回から5回に減少、額にして8000億程度が減らされた。これが、日銀がテーパリングに向かっているというメッセージとして捉えられ、25日は米金利が大幅に上昇したにもかかわらずドル円はさえなかった。このメッセージ性を打ち消すためか、27日には日銀は予定よりもオペの額を400億ほど増額し、それを見てドル円は大きく上昇した。オペの意味のない細かいサプライズは数ヶ月に一回ほどあるものだが、ほとんどは国債村のコップの中の嵐で完結し、今回のようにドル円に継続的なインパクトを与えたケースは珍しい。黒田総裁はサプライズ好きで有名だったのに、オペでメッセージを出すキャラクターと信じられるとは意外である。

 多くの人はマネタリーベースが未達に終わるのを心配しているようだが、長期金利コントロールとの矛盾が噴出するのはむしろ、このまま米国発の金利上昇圧力が加速し、年80兆相当のペースを消費しても10年金利を支えられないケースである。長期金利がコントロールされたままマネタリーベース目標が未達に終わっても、その時にまたゆっくり言い訳を考えれば良い。現水準で日銀がいわば弾薬をケチっているのも、そういう考えからではなかろうか。さらに、もしトランプ大統領から量的質的緩和への批判が続いたら、既に日銀にとって思い入れが薄くなったこの目標を撤廃してみせることが取引材料となり得るため、あえて何か言われる前にカードを捨てる必要はない。

 米国のインフレ期待が高まっていることもあって、日銀執行部にとって(現場の職員は金利のコントロールで四苦八苦するだろうが)今は「2%はまだ遠いが希望は持ててきた」という、極めて居心地が良い状態である。居心地が良い状態であり、その上でトランプ由来の不透明さがあるため、ここで変に動く理由は日銀にはなかなかにない。


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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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