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 ECB明けの6/15、ユーロドルが対ドルの最安値圏をウロウロしていた時、「ゼーホーファー独内務相(キリスト教社会連盟・CSU)がメルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)との連立解消へと内部通達」というヘッドラインがドイツ放送局を騙ったツイッターの釣りアカウントから発信され、ユーロが乱高下したのを覚えている市場参加者は多いはずだ。週末明けてこれが「火のないところに煙は立たぬ」の好例だったことが明らかになっている。

 与党CDU/CSUはまとめられることも多い姉妹政党であり、CSUは南部バイエルン州、CDUはその他の地域でそれぞれ棲み分けている。仲が良い両党だが、移民問題で危うく割れそうになった。EUへの流入が止まらない難民・移民への対応について、既に上陸地にあたるイタリアなどは態度を強硬化している。多くの難民・移民の最終目的地はドイツであり、ついにドイツでもCSU出身のゼーホーファー内相が「すでに他のEU加盟国で難民申請が登録された人を国境で追い返す権限をドイツの警察に与えたい」としたが、欧州で難民・移民に対して最も理想主義で無原則である政治家の一人でもあるメルケル首相はこれを拒否し、首相・内相間の争いとなった。その過程で「CDU/CSU連立の解消」との観測すら出て来たわけだ。CSUの急な造反の背景には10月に控えているバイエルン地方選挙への警戒があるとも言われている。

 ドイツが移民を国境で阻止すれば、阻止された方の隣国にもドミノ効果をもたらすため、難民問題はEU全域の話し合いで解決すべきというメルケルの言い分は恐らく正しいが、EU全域でまとまらず難民・移民だけが流入し続けるようでは現場は耐えられないだろう。結局メルケル側が折れて期限を決めてEU全域で「移民を最初に登録した国に送り返す」ことができるようまとめ上げると約束することになった。ところで「最初に登録した国」は最初に上陸する国になるので地中海沿いの南欧諸国、具体的にはギリシャと極右政権が誕生したばかりのイタリアであり、これらの国々からするとたまたま海に近いからといって移民をドイツから送り返されるなどたまったものではない。EU全域の合意も前途多難である。

 ドイツ議会ではCDU/CSUが最大勢力だが、仮にメルケルが期間内にEU全域の合意を取り付けることができず、ゼーホーファー側が一方的にバイエルン州での移民締め出しを実行し始めた場合、メルケルはゼーホーファーを解任せねばならず、そうなるとCDU/CSUは分裂することになるだろう。歴史的経緯から見ても両党が衝突するのは想像しにくいが、ドイツに立ちはだかる難民問題の詰み具合はそれに劣らない。

 ただ、たとえここでメルケルが退陣となっても、瞬間的にリスクオフにリアクションすることはあっても、メルケルによる欧州全体での財政緊縮体制の強要が南欧経済を圧迫してきたことを考えると、退陣は長期的にはEU、引いてはグローバル資産価格にとって決してバッドニュースではない。

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