Amazon効果とは「Amazonに代表されるe-コマースの成長に伴い、小売価格が透明化されるため、また流通コストが低下するため物価に下押し圧力がかかりやすくなる」という主張であり、2017年秋に米国を中心に好景気にもかかわらずインフレが低迷した時に提起された概念である。米国のインフレ率が戻ってきた途端に忘れ去られていたが、その中で一人物価が上がらない日本で、日本銀行が改めて言い訳の論文を掲載したことから再び一部で話題になった。
 海外の中銀関係者の見解では、Fedのパウエル議長が3月に「物価低迷の理由はよくわからない。経済の弱さが最も大きいが、他にもAmazon効果やグローバルスラックがあるかもしれない」とチラッと触れたことがある。一方ECBのドラギ総裁は「欧州でe-コマースが物価に下押し圧力を与えたという証拠は、少なくとも我々が観測できる範囲ではほとんどない」と一蹴している。論文レベルでは日銀が紹介する通り、カナダ中銀は「影響は限定的」と切り捨て、一方セントルイス連銀は「インターネット通販で購買された財の価格が下落傾向にある」と発表しているそうだ。
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 IMFカンファレンスで発表されたインターネットの物価に対する影響のレポート(2017/10)の議論の一部としてもe-コマースは登場する。「透明性の向上に伴う競争の激化」により価格とマージンに下落圧力がかかる、それもe-コマースのシェアが低い時点からこの効果が出る、またe-コマース以外の小売業にも値下げ圧力が広がると述べているが、実際フランスのデータをからはe-コマースによるデフレ圧力は限定的であったと結論となったようだ。CPIをセクターごとにわけた場合、むしろe-コマースのシェアが高いセクターの方がここ10年間の物価上昇がやや高かったが、有意差はない。e-コマースが普及している宿泊サービスと交通はCPIの中でも上がり幅が大きい。航空のような寡占市場では、価格の透明性が増すと売り手がより大胆に値上げできる。

 一方日銀によると、日本においてe-コマースシェアの高いセクターの小売物価は有意に低下し気味であるという。セクター間のe-コマースシェアと物価推移の比例係数を、e-コマースシェアの増加分に当てはめたところ、2017年のe-コマースシェア+0.6から-0.1〜-0.2程度のCPIの押下げと推測している。ただ、様々なセクターがある中で(フランスとは逆に)e-コマースシェアが早いうちから高くなったセクターがデフレになりやすい、ないしはデフレになりやすいセクターとe-コマースが相性が良い、からと言って他のセクターでもe-コマースシェアが上がればデフレになると言うのはやや飛躍がある気がする。また、日銀の物価目標まで1%以上未達であるのに、その中に0.1や0.2のAmazon効果があっても誤差である。
CPI GDP growth
 本ブログのスタンスとしては何度も取り上げて来たように、米国のコアCPIは18ヶ月前のGDPでよく説明できるため、2017年の物価の下落も謎でもなんでもなく、Amazon効果の出番はない。長期的には、技術や物流の進歩とともに物価が下がっていくのは当然だ。それが嫌なら高速道路を取り壊し、インドのようにトマトの何割かが運送中に腐るレベルまで物流網を弱体化させればおのずとインフレになるだろう。そして「どうしてそこまでしてインフレにしたいのか」という疑問に突き当たる。日銀のレポートも最後に「インターネット通販の利便性が一段と向上すれば、個人消費が上押されていくことも考えられる」と記しているが、それは「デフレで個人消費が上押されていくこと」に他ならないのではないか。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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