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 中国のクレジット引締めと共に、社債デフォルトの急増も話題になっている。ブルームバーグがまとめたデータによれば、年初来での本土債不履行は少なくとも20件。中国人民銀行(中央銀行)のデータは、5月末時点で社債残高の0.39%に当たる約663億元が不履行だったことを示している。

 中国の公募社債と理財商品は2014年頃まで元本は政府や銀行が保証すると思われていた。2014年に初めて双方で初めてのクーポン支払いデフォルトが起き、それ以来数年間をかけてクーポン、元本それぞれのセーフティネットの除去がゆっくりと行われてきた。加えて2017年以来は金融・クレジット引締めが続いたため、2018年の社債のデフォルトは過去最悪更新の可能性が高まっている。その結果、3%台の国債金利に対して3%台というリスクプレミアムが乗っている。AAA格とAA格のスプレッド格差もどんどん広がっている。投資家がデフォルトリスクという未知の恐怖に囚われているため社債発行も滞り、社会融資総量の落ち込みに一役買っている。
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 なお、中国の国内格付け機関の格付けは海外格付けと比べて6から7ノッチ高いと考えられている。良い格付けを付けてくれないと発行体が手数料を払ってくれないからだ。その結果、滑稽なことに半分程度の債券は無格付け、格付けを持っている社債のうちの7割程度がAA格以上であり、BBB 〜Cは0.2%を占めるのみである。従ってAA格はハイイールド債と考えて良く、上の図のAAA -AAの2.2%のスプレッドは投資適格・ハイイールド債スプレッドと考えて良い。現に2018年になって(中国以外では考えられないことだが)AA格企業はボコボコデフォルトしており、2018年初までAAAだった企業のデフォルトも1件観測されている(中国上海華信国際集団有限公司)。

 とはいえ、米国のハイイールド債のデフォルト率が(発行体ベースで)年率3%台あることを考えると、年初来0.39%というデフォルトのペースがさらに加速して年間1%になってもまだまだ大したことない。投資家ももし全ての社債に投資したら3%のリスクプレミアムをもらって1%がデフォルトして(残余価値を除き)0.7%の元本が失われたとしてもまだ2.3%勝っている。これは世界の終わりというよりも、正常化された社債市場の産みの苦しみに近い。

 金融システムの資金配分を政府がコントロールする開発主義国家では、政府が経営危機に陥った大企業を支援するのが一般的であり(クレジットの社会化)、クレジット市場が十分な企業選別機能を持つことは難しい。中国に限らず過去の日本でも、バブル崩壊後に大型倒産が増え始めた後も、公募社債市場に限っては1995年頃までは発行企業は優良企業であり、万が一信用不安に直面した場合もメインバンクが救済するか、社債を買い取るため、デフォルトはめったに発生しないというのが一般的な見方であり、個別社債発行体のファンダメンタルズを真剣に分析する投資家は少なかった。1995年から97年にかけて金融機関が相次いで破綻して金融システム不安に直面し、金融機関による企業支援余力がなくなって初めて、ヤオハンや日本国土開発の社債がデフォルトした。日本のクレジット市場が誕生したのは1997年という見方が一般的であり、その頃からようやく発行体ごとの信用リスクを反映したクレジットスプレッドがプライシングされるようになった。中国ほど極端ではないものの日本の格付け機関も海外機関に比べて1ノッチから数ノッチ程度甘めであるが、実績としてもデフォルトは多くなかったため信頼を失うには至っていない。

 中国のクレジット市場は20年前の日本クレジット市場に当たると考えることができそうだ。むしろ金融危機を待たずに正常化を始めたのは偉い。それに伴い投資家のリスク許容度が極端に落ち込んできたのは仕方ないことである。発行体についての知識がないのだから。無知と投資家のインセンティブ体制は更にリスク回避の化学反応を起こす。SNSで流れたとある市場参加者の愚痴によると

「たとえ大手銀行の運用担当者がリスクを取って数億円儲けてもボーナスに反映されるのは微々たる額だ。一方、万が一保有債券がデフォルトした日にはクビでは済まない。辞めることすらできずに一生追及される可能性が高い。AAを買って責任を取るくらいなら多少のスプレッドを諦めてもみんなと一緒にAAAを買う方が合理的である」

「ファンドマネージャーもいけていない。株式投資家はリサーチを読み込んだり取材して回るが、社債投資家が調査して回っているのを見たことがない。pdfやパワポを一通り読んだだけで数百億円分の債券を買っていく。考えるだけで怖い」

 無知で無能な投資家たちのおかげで金融引締めが終わってもクレジット引締めが続く可能性が高いが、証券化商品を使ってリスクを分散するなり、間接金融に先祖帰りするなりと、解決方法はいくらでもある。無謬を個人に強要する銀行の文化が投資に向いていないのは万国共通だ。「デフォルトは確率の問題であり、一個デフォルトしたが他からの利回りで十分カバーできたから狙い通りである」と主張する分散投資も許容されない。「なぜその一個のデフォルトを事前に予想できなかったのか」にこだわる知恵遅れは必ずいる。これをクリアするには銘柄選択の責任をアウトソースしなければならない。それは完全にブラックボックス化された証券化商品でもAIでもよいし、日本の先例を引くならインデックス投信でも作れば良い。インデックス投信が保有したままデフォルトしたらそれはインデックスベンダーの責任だ。リスクマネーそのものは依然余っている。時間が経てば無意味なリスクプレミアムは正しい報酬体系の元でスタッフが一所懸命企業調査を行う投資家が全て持っていくだろう。

    話が逸れた。何よりもデフォルト実績はたかが知れているので、本件をもって中国経済がクラッシュすると期待するのはあまり合理的ではない。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。