どこの国でも銀行員を動かすには権力の棍棒で殴るしかないが、権力の棍棒で殴られてもあれこれ言い訳を付けてリスクを取らないのが銀行員である。
20180803134358572
 7/18頃にPBOCが各商業銀行に電話をかけてAA+以下の社債を買うように圧力をかけたのはほぼ確実のようだ。その数日後にはMLFによる流動性供給も行われた。しかし、それを受けてまず買われたのは地方政府傘下の融資プラットフォーム(地方政府融資平台)が発行する城投債(Urban Construction Investment Bond)であった。

 城投債はロイターが"Quasi Municipal Bonds"と表現している通り、擬似地方債である。中国は長らく地方自治体に債券発行を認めてこなかったが、その規制を迂回する形で地方自治体は投資会社を作ることにより簿外で資金を調達し、インフラ整備によるGDP引上げに当ててきた。地方政府の隠れ債務の元凶でありデレバレッジの台風の目だったため、今まではリスクプレミアムが当局の思惑通り上昇してきた。とはいえ民間企業と違ってまだ地方政府の暗黙の保証が効いておりデフォルト実績がないため、窓口指導で低格付け債を買えと言われながらもデフォルトが死より怖い銀行担当者が一斉に飛びついた。上図は3年AA格城投債とAA格一般事業債の利回り格差である。城投債の方がリスクプレミアムが高かったのが、わずか1週間で事業債を逆転している。
20180803134356775
 こちらは城投債、事業債それぞれの銀行間取引の出来高に占める低格付け債の比率である。ジャンク格付けの城投債の出合いが激増しているのがわかる。二枚のチャートはネット上に転がっていた国泰君安証券のレポートより。

 これが何を意味するかというと、指導部が2017年から金融やクレジットを引締めてまでして減らしたかった、シャドーバンキングを通した地方政府の債務問題が、少なくとも資金調達に関しては一周回って振り出しに戻ったのである。中国人民銀行が窓口指導QEを通して民間企業に供給したかったクレジットは城投債によってクラウディングアウトされている。社会主義政権による金融のマイクロコントロールの難しさが改めて浮き彫りになった。優先的に資金調達できた城投プラットフォーム企業が調達の手段を失った民間企業に年率45%で運転資金を又貸しするというギャグのような事例も聞かれる。

    本来、窓口指導で銀行が言われていたのは「事業債を買え」であり、城投債を買っても加点にはならない。しかし、それでもAA+以下の社債を買ったと言い張ることができ、ゼロ回答にはならない。MLFは別に元本毀損リスクを取り除いてくれる訳ではないので、よく知らない企業の社債を買うくらいならいらない。それが銀行員たちの考え方なのだろう。もっともこれは銀行の問題だけでなく、前回の記事の繰り返しとなるが、政治改革で解決すべき問題をあえて市場機能に丸投げする中国政府と、本物のQEをやらずに商業銀行に火中の栗を拾わせようとする人民銀行のやり口の限界でもある。

 もちろん、民間企業の社債発行環境に改善が見られない訳でもない。窓口指導QE以降、いくつかのAAA格不動産企業が社債発行市場への復帰に成功している。しかし、全体的に民間企業は流動性がトリクルダウンで自分たちのところまで流れてくるのを待つしかない。2013年以降のサプライサイド改革により格差拡大と寡占化が進んだし、たった今終わった金融引締め劇もこの傾向を加速させるだろう。クレジット投資は業界2位まで、という日本クレジット投資の定石を隣国も学ぶことになるか。

関連記事

理財商品が空けた穴をQEで水没させようとする中国
野村総研が中国の流動性回復を解説する
中国のクレジット環境が早速緩和的に
中国人民銀行が政府の財政緊縮批判で漢気を見せる
渦中にある中国社債市場の詳細データ
中国社債市場の産みの苦しみ
中国の金融政策が緩和的に傾く可能性
中国経済が急激なデレバレッジに耐える

これより先はプライベートモードに設定されています。閲覧するには許可ユーザーでログインが必要です。


この記事は投資行動を推奨するものではありません。



コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット