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 金融庁が積立NISAを広める活動の一環としてサイトに載せている個人投資家ブロガーと金融庁若手職員の対談連載記事の内容と文体が攻めていることが一部で話題になっている。国際分散投資を続けている個人投資家ブロガーを師と仰ぎ、一方で金融機関の勧める金融商品ついては「ボッタクリ」「カモられた」という表現を金融庁からパブリックに発信されたことが議論を呼んだ。

 一口に投資とは言っても様々な流派や哲学、趣味、好きなセクターや手法があるだろう。その中の一つとして積立てでタイミングリスクを分散させた国際分散投資があっても良いし、勉強量に比べてコストパフォーマンスの良い手法の一つであるのは間違いない。特に初心者で投資元本が少ない場合、時間をかけてマーケットタイミング、個別銘柄や様々なテーマのアクティブファンドについてあれこれ分析しても割りに合わないかもしれないし、かと言ってハイボラティリティの小型株で勝負をかけると還らぬ人になる可能性が高いので、積立による国際分散投資は合理性が高い手法の一つである。

 しかし、いかにコスパが良くても、また現代ポートフォリオ理論の支えがあるとしても、分散投資はあくまでも投資手段の一つにすぎず、それ以外の投資手段をぼったくり商品とまとめるのは適切ではない。一歩譲って個々の投資家がそう考えたり感じるのは自由だ。「プププ、◯◯さんですら金融機関にカモられてたんだ」などとパブリックに向かって発信するのは、その「素人から勉強した人まであまねくカモっている」金融機関の監督官庁として、天に唾する行為に近いのではないか。
 
 せっかくなので各論にも揚げ足取りをしておくと、

 「30年前に先進国の株式市場の平均株価指数(MSCIコクサイ・インデックス)に投資をしていたら、どうなっていたのかも調べて(中略)、その投資元本は10倍くらいに増えていたという事実に驚愕」したとのことだが、ここ30年間の株式の好調は冷戦終結によるグローバル貿易の拡大、冷戦にポテンシャルを封じ込められていた中国を中心とする新興国の急速な成長、ITの爆発的な発展による生産性向上、およびこれらの結果としてのインフレの鎮火によるものである。次の30年についても株式インデックス運用の期待リターンがマイナスということはさすがにないだろうが、ここ30年と同じ展開が繰り返されるとは限らない。またこの30年でも大きなドローダウンは何度もあった。リーマンショックがまた来ても長期的には全戻しするという信心を保てる、と言い切って良いのはリーマンショックを体験した人だけだ。

 「人間の欲望を原動力として成長を続ける資本主義の世界に生きていて、簡単に資本家サイドに行ける手段があるのにそれをしないのはもったいない。フランスの経済学者トマ・ピケティさんも言ってるじゃないですか。労働収益よりも資本収益のほうが効率的だって」
とあるが、筆者の理解が正しいのであれば、多くのエリート様の書斎の飾りになっているトマ・ピケティ『21世紀の資本』の主張は真逆である。資本収益(インカムゲイン。キャピタルは戦争やショックや税によって毀損する)が長期的に安定しているのに対し、労働生産性の伸びは(新興国のキャッチアップを除いて)長期的に低迷してきた。従って労働によって新たに富を蓄積するのに非常に時間がかかり、相続した過去の富が絶大な威力を発揮して格差は拡大しやすい。株式をはじめとする金融資産は不動産と一緒くたに議論されており、そして多くの場合は4〜5%のリターンを上げてきた不動産(昔なら農地)が例として挙げられている。少なくともスズメの涙のような賃金から余ったお金をインデックス投信に積立投資すれば簡単に資本家サイドに行ける、という話ではない。むしろこの本を掲げながらg以下のrでローンを借りられるようになって上層階級に行けるチャンスが最近出てきた、と不動産投資を勧められた方が反論しづらい。

  「直感的に考えて欲しいんですが、どこの企業も、基本的には成長を前提として活動しています。そしてその努力をします。だから、もしもそうでないような状況が訪れた場合、例えば数十年後に(単一国ではなく)世界規模で経済が成長していないなら、投資をしていようがいまいが、どっちにしても普通の日常すら送れないんじゃないか、というくらいに私は考えています。漫画『北◯の拳』みたいな世界になっているかも」
とあるが、リスクキャパシティは人それぞれである。直感的にサラリーマン業のリストラ確率やボーナス、ローンを組んで購入した不動産の価値が既に世界経済に連動している場合が多い。不景気でリストラされると一人◯斗の拳だ。そこに株式投資で景気サイクルリスクを二階建てにしたいかどうかは人によって分かれる。企業や経済が成長する前提では当然リスクを取って投資している方が期待リターンが高い場合が多いが、かと言ってバリュエーションがめちゃくちゃになっている場面でも目を瞑って突撃していくと、リーマンショック後の上海株のように、どんなに経済成長が続いても株のリターンが全くないケースに当たることもあるだろう。奇しくも上海株の長期チャートは官製ブームで人民が投資に殺到すると後は焼け野原になる、という例を何度も提供してくれている。
Shanghai index
 ただ、リスクを盲目的に忌避するのでなくシナリオを考えて割り切っていく発想そのものは大事だ。金融庁の大先輩(?)にあたる森長官暴露本の著者も『その資産運用は、どうなのか』で外貨投資について

 「手段はさておき、外貨資産を持っておくということは悪くないと思います。もし今から数十年後、日本がまだそれなりに経済力を持った国でいることができたとすれば(中略)外貨資産が、多少元本割れしていたとしても、まあ、「しゃーねーな」ぐらいで笑って済ますことはできると思います。仮に数十年後、日本が全くダメダメ国に転落していた場合、そこで役に立つのは外貨資産だけです。(中略)外貨は老後を支える貴重な虎の子になってくれるになってくれるはずです」としている。

 一方、数十年スパンで国際分散投資のリターンがプラスになる蓋然性が高いにしろ、経済ショックやバリュエーション調整は定期的にやってくる。また人生では様々なタイミングで大きな出費が発生する。結婚、出産、教育費、住宅購入。これらのために運用資産を売却して出金することがあるとすれば、運用結果はそこで確定する。インデックス投資はいざという時に流動性を確保できる方なので頼もしいが、「長期的にいずれ回復する可能性が高い」からと言って無条件に資産運用をフリーランチのように考えるのは危険である。結局、投資によるインカムゲインを享受しつつ、投資先の勉強やドローダウンを食らうリスクの点検を絶えず行っていくのが王道になるのではなかろうか。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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