昨年腐敗したズマ元大統領を追放して国際金融市場のヒーローになった南アのラマポーザ大統領への心証が急速に悪化している。「白人農場主らの土地を補償なしに収用することが可能になるよう、憲法条項改正に取り組む方針を発表」と発表したのに対してトランプ大統領が食いつき、「南アフリカの土地と農地の接収、収用について詳しく調べる」とツイッターで南アを攻撃した。更にトランプは南アにおける「大規模な農民の殺害」も取り上げている。米国からの制裁も懸念されてZARは急落した。
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 トランプ大統領は他の地域と同様、アフリカについても無知である。上の発言はトランプのアフリカ大陸についての初ツイートであるトランプがツイートしたような「農民の大規模な殺害」は存在しない。 南アフリカ最大の農場所有者団体アグリSAによれば、2017~2018年に殺害された白人農場主は47人。最も多かったのは1998年で、152人だった。襲撃数はやや増えがちだがそれでもピーク時の半分である。ちなみに同時期の米国で銃によって殺害された人数は年間1万人以上である。

    物騒ではあるが、元々アパルトヘイトで違う国のように対立していたのだから、これくらい殺伐としていても不思議はない。襲われる方の白人農場主側も善良な小市民というわけではなく、暴力は双方向のものだ。2004年には白人農場主が黒人従業員をライオンの檻に投げ込んでライオンに食べさせたなどというニュースもあった。しかし、いずれにしても「白人農場主からの土地収用」というヘッドラインは隣国ジンバブエを彷彿とさせ、南アへの投資を検討する際に非常に印象が悪い。

姉妹国家ジンバブエ

 隣国ジンバブエについて我々は「ムガベ大統領が白人農場主を追放したため、生産性が激下がりしてハイパーインフレになった」くらいとしか聞かされていない。せいぜい、馬鹿なことをする独裁者もいるものだ、と感じる程度である。もちろん歴史はそんな単純なものではない。

 ジンバブエは19世紀後半にイギリスの植民地にされ南ローデシアと名付けられた。WW2後に植民地を手放し始めたイギリスは黒人を含めた参政権を保障する形での独立を南ローデシアにも求めたが、南ローデシアの現地白人支配層はこれを拒否し、1965年にイギリス総督を追放して白人至上主義国家として独立した。黒人側の武装闘争(Rhodesian Bush War)と国際社会の非難により1979年に「ランカスター・ハウス協定(Lancaster House Agreement)」が結ばれ、南ローデシアの白人統治は解消され、ジンバブエ共和国として独立した。ローデシア密林戦争の指導者の一人であったロバート・ムガベが首相、後に大統領になった。

 開墾したのが白人入植者の先祖だったとはいえ、また高い農業技術を持っていたとはいえ、国中の農地が一部の白人入植者に独占されていた状況は変えていくべきものであるという点について当時から異論は少なかった。ランカスター・ハウス協定では白人からの土地買収を自由意志の下に行うものとされ、買収代金の半分をイギリス政府が負担した。ジンバブエ共和国政府はこの協定を守り土地改革をあくまでも緩やかに進め、白人の協力を得ながら順調に経済運営を行い「ジンバブエの奇跡」として絶賛された。ところが1990年代になるとイギリス政府はランカスター・ハウス協定を破棄し、ジンバブエ土地買収への支援を打ち切った。コンゴ内戦への介入や独立戦争の退役軍人への恩給問題も重なってジンバブエはたちまち財政難に陥り、白人農場主からの土地収用が加速(Fast track land reform programme, FTLRP)することになった。その後の展開は我々がまとめサイトで読んだ通りであり、白人農場主からの土地収用=ハイパーインフレという印象を人々に植え付けた。

南アの歴史

 戦後の南ア歴史もジンバブエと似ている。1913年の原住民土地法(Natives Land Act)により黒人はほとんど全ての土地を収奪された。南アの白人支配層は宗主国が引くほどのアパルトヘイトを打ち出して英連邦から脱退し、白人至上主義国家として独立。ローデシア、台湾、イスラエルと仲良く国際社会から孤立していた。日本が名誉白人に認定されたのもこの頃である。ジンバブエのように黒人との内戦にこそならなかったが、南アの現与党であるアフリカ民族会議(ANC)は反アパルトヘイト闘争を続けた。冷戦の終結と共にようやく、国名こそ変わらなかったが全人種参加選挙が行われ、白人支配が終了した。その後はANCが政治を主導した。

    1913年原住民土地法により作られ、アパルトヘイトにより固定された世界最大とも言われる経済格差をどう解消していくかは南アの課題であった。今でも総人口の8%にあたる白人が農地の72%を所有し、国民の75%以上を占める黒人は農地の4%を所有するにすぎない。元々アパルトヘイト時代からANCは白人土地の黒人への分配を掲げていたが、ラマポーザが改正しようとしている1996年憲法ではそれを「公平な補償と共に行っていく」としていた。初代大統領マンデラと後継者のムベキはかつてのジンバブエと同様に温和な、自由な売買に基づく土地収用を進めていた。その結果所得格差は一向に縮まらず、ムベキはズマによって無策さを糾弾され大統領の座から追われた。国家予算にも限りがあるので無制限に買収代金を作れるわけではないし、政府が広く税を取ってから白人農業主に満額支払うなら格差は固定される。ズマは海外投資の呼び込みによって経済の底上げを目指そうとした形跡もあったが腐敗がひどく、実績を上げる前にラマポーザに追放された。

ラマポーザのプレッシャー

    そしてラマポーザ率いるANCのさらに背後を狙っているのは南アのポピュリスト政党、EFF(Economic Freedom Fighters)である。ラマポーザも含めてANC指導者の面々はアパルトヘイト時代の闘士だったという政治的遺産があるが、アパルトヘイト時代を知らない若者の間ではANCは単なる腐敗した巨大与党であり、「白人の土地を収奪して黒人に分配する」と主張するEFFへの支持が広がっている。マンデラ、ムベキ、ズマの三代を通して持ち越されてきた土地改革がさらに滞るならラマポーザもまた突き上げを食らうだろう。
 
 確かに私有財産は不可侵であるべきであり、またそれがイノベーションやら経済発展やらの前提であると我々は学んでいる。しかし土地の独占と絶望的な経済格差はイノベーション以前に国家運営に支障をきたすものであり、土地の収用と分配という方針は決して間違っていない。中華人民共和国は建国時に全国の地主から全ての土地を収奪し、今になって「使用権」を少しずつ売り出して財政の足しにしている。日本は戦後GHQの手で農地改革が行われた。ドイツは高い相続税でユンカーを没落させた。アフリカでも土地の収益を税金によって徐々に回収し、白人農場主が得意とする高付加価値農業を温存したケニアのような成功例もある。というより、元々重税で格差を縮小させていけば済んだものの、マンデラらANCの理想主義者が民族融和を重視して土地購入という路線に発想を集めてしまったせいで、「土地を買うためのお金がない」という袋小道に入ってしまっている。

リセッション入りした南ア

    しかし我々は畢竟ラマポーザに入れ知恵できる立場にはない。そういうのはマッキンゼーの仕事だ。一個人投資家としては、格差問題と土地配分問題が常に南アに付きまとうことを意識し続けるしかない。9/4に発表された南アの2Q GDPは-0.8%と、1Qに続いて二期連続のマイナス成長となりリセッション入りした。うち政治的に不穏な雰囲気が漂う農業は-29%と急激な減速を見せており、全体にちょうど-0.8%ほど寄与した。トランプの攻撃を待つまでもなく、南ア経済は岐路になっている。

  南アの次の関門は10月12日に予定されているMoody'sの格付け見直しである。投資適格の中の最低点Baa3を付けているMoody'sは今のところGDPが減速しても中期的に財政再建目標は達成できると好意的だが予断を許さない。他の2社は既にジャンク級を付けている。もしMoody'sが格下げしたら昨年ズマ時代のインデックス落ち騒ぎが今度こそ実現することになる。土地問題があってもラマポーザ個人に対する期待と信頼感がまだ健在なのが救いである。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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