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 北京、深センをはじめとする中国の大都市で賃貸住宅の家賃が上昇している。チャートは上海、北京、深圳、広州の過去3年間の住宅賃料指数推移である。北京は平均でもこれであり、局地的には半月で賃料が倍増したエリアすらあるそうだ。

賃料利回りの修正

 歴史的に中国不動産の運用利回りは非常に低く、2%でもあれば良い方であった。北京市の平均賃貸リターンはようやく2017年10月の1.35%から2018年7月の1.57%まで上がってきたところである。それに比べて本邦不動産の4%、5%が魅力的に見えるという話もあった。これはキャピタルゲインを期待して住宅を購入する層が多くインカムゲインに無頓着だった、また賃貸が市場として未熟であったことに由来する。ただでさえ住宅が値上がりするに決まっているので、4%も5%も払うくらいなら間違いなく借りずに住宅を買った方が良い。1.35%の利回りでは回収する頃に70年間しかない土地使用権がなくなってしまうため、何年も前から賃貸利回りが低いことをもって中国不動産がバブルであると説く層もいたようだが、長い住宅価格の上昇トレンドの中ですっかり(発言権的にも物理的にも)弱ってしまった。そして賃料の急上昇が彼らを焼き払うとどめの一撃になった。

供給の減少

 賃料の急上昇が今になって起きた背景としては、住宅ローンが下りづらくなり賃貸の需要が増えたこと、金融とITを中心に新卒など若者の賃金が上昇を続けていること、金融引締めで住宅建設が減速して供給が減ったこと、北京市が「低端人口」の排除と共に安い老朽化した住宅を一気に撤去したこと、そして残り少ない住宅を寡占状態の賃貸業者が買い占めたことが挙げられる。昨年年末に北京市は老朽化した住宅街での火事を口実に出稼ぎ労働者など「低端人口」(底辺層)の駆逐を図り、強制的に住宅を取り壊し彼らを寒空の下に放り出し、一時「低端人口」が流行語になったが、そのツケを中産階級も払うことになった。そして何よりも、中国政府が「デレバレッジ」の名の下に住宅ローンとデベロッパーのファンディングを同時に引き締めたため、住宅供給が細ったのが原因にある。

 本ブログは夏に「中国不動産のソフトランディングがすぐそこに(1)」「中国不動産のソフトランディングがすぐそこに(2)」の中で
「中国政府はデレバレッジのために「ローン規制」と「購入規制」の双方で需要の押さえ込みを図っている。不動産企業のファンディングも一部の勝ち組を除いて厳しくなっている。それを見越した不動産企業は2018年の土地取得を減速させ、同時に2017年に既に取得した土地をさっさと開発して売り切ろうとしている」
「足元ではもし今のペースで売れ続けながら新規住宅供給が止まれば中国全土の不動産企業の住宅在庫は10ヶ月で売り切れてしまう計算になる」
「このまま不動産企業の在庫が掃けると、2014年から世界経済を脅かして来た中国の不動産バブル問題は見事にソフトランディングを果たしたことになる。そして在庫が減って来たのを見て政府が再び購入規制を外した場合、その時に備えてお金を貯めていた消費者はバランスシートを小さくしてしまった不動産企業と面合わせになる。余計なマイクロコントロールでデフレ期待を作ると供給力が削がれるのでインフレ要因になる
と、供給減少に由来する新たな不動産バブルの警戒を書いて来たが、早速歪みが噴出した形となる。不動産価格抑制のための施策の中でも供給を止めるのは最低なものである。固定資産投資が低迷する一方で需要は消えず、スクイーズされる住宅価格によって人民の消費余力も蝕まれる。経済を支えて来た両輪が共に脱線するわけだ。そして両輪が脱線しても供給が減るため不動産価格は下がらない。
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70都市の新築住宅価格。
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70都市の中古住宅価格。

影響

 このブログが主張してきたように、2016年以前に不動産バブルは存在しなかった。GDPと共に人民の賃金が上がれば必ずより高い住宅を買えるようになるので、多少投機的に先回りする人がいて、高値掴みで失敗しても2, 3年も待てばすぐに人民が追いついてくる。しかし2017年以降は初めて本格的なバブルを迎えた可能性が高い。

 中国CPIには帰属家賃は入っていないし、住居のウェイトは低めであるため、賃料上昇そのものの影響は限定的であると見る。しかし、人口ボーナス(農村からの安価労働力供給)が終わった中、家計を維持できなく労働者は大都市を離れるため生活コストの上昇は企業に賃金上昇を強いる。賃金上昇はまた製品価格に転嫁される。

 もっとも、中国不動産の賃貸利回りが日本並みの4〜5%まで上昇するとは思っていない。政府はいくらでも賃貸住宅を建てられるし、利回りが出たら投機的に買っていた勢も賃貸に出すだろう。不動産価格の方も、人民の家計が耐えられる水準を超えている。それでも歯を食いしばって大都会に住む価値があるほどどんどん賃金が上がっていくかと言うとファンダメンタルズ的に微妙なところだろう。一時的に供給が絞られてバブルになっているとはいえ、利回り重視勢がギブアップして買い出すともう後は続かなそうな気がする。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。