Sony Real yield2
 この図はソニーフィナンシャルホールディングスのレポートから切り取ったものである。レポートそのものはもっと多様なリスクの点検を行っているが、今回はあえて都合良く一部だけ切り取って議論に使うこととする。

長短金利逆転=リセッションという常識

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 米金利の長短逆転は夏に社会で広く話題になった。本ブログでも度々取り上げて来たが、過去に長短金利逆転が起きた後は必ず景気後退(リセッション)が来ている。今夏も逆転こそしなかったものの、2年-10年スプレッドは一度ゼロに近づこうとした前回の記事ではインバートについて「今回は違う」派と「理由は関係ないよ」派の意見を紹介するだけにとどめ、むしろ8月の米金利のフラットニングそのものを9/15までの一時的な現象とした(今のところ9/15以降米10年金利は上昇に転じ、長短逆転から遠ざかったのでそれ自体は当たっている)が、「今回は違う」を視覚的に表現した記事が見つかった。

潜在成長率、実質長期金利、実質短期金利

 冒頭の図は長短金利の代わりに、米国の実質潜在成長率、実質長期金利と実質短期金利を比べている。21世紀に入ってからの2回の長短金利逆転(インバート)〜リセッションのケースではそれぞれ、短期金利を操作するFedによって実質短期金利が潜在成長率を突き抜けて引き上げられた。その時、一方市場参加者が長期金利を評価し取引によって決定する中で、実質長期金利が潜在成長率を上回ることはなかった。その結果としての長短逆転である。従って非常に素直に読むと、これまでリセッションを招いたのは「潜在成長率を上回った実質金利」であり、一方で実質長期金利は潜在成長率を上回らないので結果として長短逆転も起きていた、と言う構図となる。

 潜在成長率とは「労働投入量、資本投入量、全要素生産性の3要素」を平均的水準と仮定した場合のGDP成長であり、GDPの「平均的な潜在的な実力」と言える。それを実質短期金利が上回るということは、乱暴に言うと全ての企業の平均的な実質成長率が実質短期金利よりも低いということである。その場合お金を借りて設備投資をしても借金が膨らむだけなので当然企業は設備投資をやめてしまう。

今回は違う

 そして「今回は違う」という。実質長期金利も実質短期金利も潜在成長率を大きく下回っており、その下回った水準域で長短逆転しようとしている。これは2001年や2007年の長短逆転と似て非なるシチュエーションである。では今後実質短期金利は上がり続ける可能性が高いし、潜在成長率をブレイクするまでリセッションを招かなさそうなのに、なぜ実質長期金利は潜在成長率の水準まで上昇しないのか。
Term premium
 長期金利は将来の短期金利の期待値に見えるが、需給要因などで異なる水準で取引されることもある。その差をタームプレミアム((Term premia)と言う。タームプレミアムのチャートは再びソニーフィナンシャルホールディングスから拝借する。足元のタームプレミアムは、イエレン前Fed総裁風に言うとFedのQEにより長期金利水準が低く抑えられていることから起きたものだ。ECBや日銀から溢れ出た資金も一役買っていることだろう。リセッションを招くのがあくまでも「実質金利>潜在成長率」であるなら、内外QEによって歪められた長短スプレッドは無視しても良いということになる。Fedのバランスシート縮小などによりタームプレミアムが平常水準に戻り、米長期金利が再び上昇に転じれば長短逆転とリセッションの議論などすぐに忘れ去られるかもしれない。

潜在成長率という鍵

FRED potential growth
 ここまで潜在成長率を無条件に真実として考えてきたが、果たしてこれを神託のように考えて良いのか。潜在成長率(青線)は米国のCBO(Congressional Budget Office, 米国議会予算局)が計算しているが、概ね足元の実質GDP(赤線)を均したような推移となっている。ポテンシャルがあるのに実績実質GDPだけ落ち込むとリセッションということになる。というわけで安心して使って良さそうに見える。少なくとも「長期国債の投資家はCBOよりスマートであり、CBOが見落とした潜在成長率の劇的な低下を正しく予想して低金利で国債を買っている」わけではないようだ。なお、トランプ減税効果が一巡した2020年以降は緩やかな低下に転じると予想されているため、実質長期金利天井はどんどん低下してくる。

味方

Daiwa AM
 大和投信のレポートも「実質長期金利がまだ潜在成長率よりだいぶ低い」ことをもって長短逆転=リセッションではないと説いている。長短の差はあっても概ね味方であると言えるだろう。実質潜在成長率の低い新興国から見たら問題かもしれないが、少なくとも米国に関する限り政策金利は高すぎの域からほど遠い。

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Yellen Tells Investors Not to Fear the Flattening Yield Curve 

米金利の長短逆転とリセッションの関係
米国の長短スプレッドが日本並みのフラットさに

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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