Italy
 金曜に発表されたイタリア二大ポピュリスト政党「五つ星運動」「同盟」が支えるコンテ政権の2019〜2021年度の財政計画は、事前予想よりもやや大きな赤字幅となるGDP対比2.4%で着地した。事前には1.9%程度と予想されていたようだった。
 
Italy 10 year
 この赤字幅を巡って、1.6%を主張していたトリア財務相と、2%以上を主張していた左右両党の間で度々論争が繰り返され、感極まってトリア財務相の辞任の噂も度々流れた。それでも2.4%で着地したのはサプライズだったようで、イタリア国債は大きく売られた(利回りと対ドイツ国債スプレッドは上昇)。

現状と比べてわずかな歳出拡大にすぎない

Italy fiscal dificit
 冒頭の日経記事のチャートとやや被るが、図はイタリアの過去10年間の財政赤字(実績)である。足元の2017年でも2.3%あることに留意したい。2.4%は足元の水準と比べてわずかな増加幅であるにすぎない。2018年がどこで着地するかわからないが、2.4%を過去10年間の水準の中に紛れこませても何ら不自然がない。選挙中に両政党が掲げていた最低所得保障(ベーシックインカム)や減税、インフラ投資などで一時GDPの6%に当たる1000億ユーロの財政拡大も試算されていたのが、政策をそれなりに実現させながら財政赤字目標を2.4%に着地させたのは、トランプと同じくらいこのポピュリスト兄弟は「前評判の割りにまともだった」と評価できると思う。

2%台は適切な水準

Italy core CPI
Italy GDP
 そもそもイタリアはGDP(上図)も物価(下図)も弱々しく、EUが公的資金注入に際してベイルイン(=国民貯蓄の毀損)の強要というハードルを設けたこともあって長く苦しい銀行の不良債権処理が続いている。ECBのQEもイタリアでは最も効果が薄かった。そういう環境下で旧民主党政権やトリア財務相が描いた2%台から1%台への急速な緊縮はむしろハードランディングを招く危険性があったのではないか。かつて民主党政府がEUに約束した2021年の財政収支黒字化を本気で目指したら日本の二の舞になる可能性が高い。EUルールの上限は3%であるし、日米の財政赤字がそれぞれGDP比4〜5%であることを考えると、2.4%は取るに足らぬくらい小さい。

何が問題か

 にも関わらず大騒ぎになっているのは、イタリアの公的債務残高がGDPの130%と突出して大きい中で、財政赤字2.3%〜2.5%の間で諸説あるが、そのゾーンを上回ると財政赤字が発散し財政再建が遠のくからと言われている。ムーディーズは5月に歳出拡大の恐れがあるとして現在のBaa2格付けからのネガティブウォッチを付けている。その後財政案を確認してから見直すとして、この後まで格付け見直しを延期してきた。もし財政案を見たムーディーズが財政拡大を理由に格下げしてきたらイタリアの投資適格格付けが首の皮一枚になってしまう。

 また、同じ理由で欧州委も予算案を承認せず差し戻す可能性がある。押し問答が続けば再びEU離脱の話題が出てくるだろう。にしても、財政赤字3%超えどころかBOT発行からEU離脱まで取り沙汰された5月末よりも、今の方が金利が高いのはやりすぎだと思う。

全部EUのせい

 本来財政拡大による高金利に対しては、独立した中央銀行がインフレが加速しない程度に金融緩和を推進すれば済む話である。それがイタリアになった途端にまるで新興国のように「財政拡大は高金利によって経済に悪影響を与える」ような論調になるのは独立した中央銀行と通貨を持っていないからである。百歩譲ってユーロがドイツによる南欧からの収奪でなく、近隣窮乏策でもないとしても、加盟国財政がその辺の新興国よりも大問題になりやすいのはやはりユーロがあるせいである。全てEUが悪い。イタリア国民が示した回答は間違っていない。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。