HYG
JNK
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 米株の下落に触発されて、北米ハイイールド債ETFの投資家も浮き足立っている。Bloomberg記事によると、

「ニューヨーク時間20日午前11時21分、1人のトレーダーがiシェアーズiBoxx高利回り社債ETF(HYG)3億2200万ドル(約360億円)相当を売った。その約5分後に、今度はSPDRブルームバーグ・バークレイズ高利回り債ETF(JNK)2億6700万ドル相当が売られた。さらに、午後1時39分にはHYG 3億5000万ドル相当が売られた」

 と、20日NY時間に2大ハイイールド債ETFでそれぞれ投資家のワンショット数百億円の大口のぶん投げが観測されている。
Junk flow
 12月中にHYG, JNKなどのハイイールド債ETFは26億ドルの引き出しに遭っており、またその結果2018年は初めて純流出の年となった。
 ハイイールド債ETFの大規模な解約は5月末にも観測されており、短期ハイイールド債SHYGはものの数日で運用資産の4割もの引き出しに遭ったが、本ブログはその時「ETFは原資産の規模に比べて小さく、ETFの解約・設定のフローは必ずしも原資産のフローと一致しない」と宣言し、実際その後SHYGは上昇の一途を辿った。しかし、今回はもっと素直な見方をしても良いようだ。

原資産対比で割安まで売られたETF

HYG key
 12/21引け時点でHYGはフェアバリュー(iNAV)対比で0.42%ディスカウントで取引されている。iNAVは運用会社がETFを発行する時に裏で保有している全ての債券のビッドサイドの価格から算出されるETFの理論価格であり、21日引け時点では80.56であった。一方ETFの引け値は80.23、Mid-Point Priceは80.22であり、取引所では80.21 / 80.23のマーケットで引けたと思われる。これは、ETFの資金流出が確かにETF投資家の撤退から来ていることを示している可能性が高い。
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 図はツイッターで拾って来たもので、上から12/20時点のHYGの価格、対iNAVの割高割安、フローである。原資産(ハイイールド債の束)のオファーサイドの加重平均は当然iNAVよりも高く、平常時ETFは原資産のビッドサイドとオファーサイドの間で取引されるため、iNAV対比ではややプレミアム(やや割高、緑色)で取引されることが多く、ディスカウントになるのは珍しい。実際、図でも平均プレミアムである+15セント(原資産のビッドオファーがだいたい30セント程度であることを示唆)が水平線として描かれている。

 なおこの図では20日にマックス74セントのディスカウントが付いたということになっているが、iNAVは毎日引けにしか更新されないので、日中のディスカウントは「今この瞬間の本当の原資産のビッドサイドはiNAVよりも安いに違いない」という市場参加者の計算の表れでもあり、必ずしもその分ETFが原資産対比で割安になっていることを意味する訳ではない。

    理論上ETFがディスカウントで取引されている場合、ETFを安く買って原資産の束をビッドサイドで全て売れば無リスクで儲かるはずだ。金曜の引け時点でタイミングを揃えるとETFを80.23で買って原資産を80.56で売れば無リスクで33セント儲かる。原資産を保有していないなら、ETFをディスカウントで買って運用会社に持ち込んで解約を申し込んで原資産を引き渡してもらうこともできる。ではなぜディスカウントが一瞬で収まらないかと言うと、ETFそのものの流動性を遥かに上回る売りがETF投資家から出た→業者が捌き切れなかったら解約して原資産を売るつもりでディスカウントで引き取ってから原資産との裁定に手間取っている、または原資産もiNAV近辺では売れなかったということを意味する可能性が高い。また原資産の値動きも激しいし流動性も変わり得るので裁定と分かっていてもタイミングリスクを取りたくないのかもしれない。

不利な水準でぶん投げた投資家たち

 ETFの運用会社は「ETFが原資産のビッド・オファーの両サイドの外側で取引される場合は上のような裁定機会があるので、両サイドの内側で取引されることが保証されている。更に上場されており参加者が多いため、原資産よりも流動性が高い」と説明して来た。しかし、現実にはあまりにもETFの売り玉が多いと、原資産のビッドサイドより高いところで買いたい参加者がいなくなるためビッドサイドに張り付く(プレミアムがなくなる)ばかりか、原資産のビッドサイドを突き抜けることもある。12/20, 21の売り手に限って言えば、(iNAVが正しく値付けされていた前提では)原資産の束を買って保有していた方が有利にポジションを外すことができたかもしれない。

 このように肝心な時には流動性がなくなることから、平常時に原資産のビッドとオファーの間でより狭いビッドオファーで取引できるからと言って、ETFは原資産よりも常に流動性が高いとは必ずしも言えない。むしろうがった見方をすれば、原資産の参加者はあまり流動性がないことを前提において慎重に投資しているのに対し、ETF投資家は下手にシャープな(フェアなとは限らない)マーケットが立っているので流動性を気にせず豪快にぶん投げることに抵抗がなくなり、ETFの存在はマーケットの一方向への値動きを加速させる可能性を孕んでいるとすら言えるかもしれない。

クラッシュの解釈

 ところで、ハイイールド債のクラッシュは何か我々が知らない深刻な危機を表現しているだろうか。FOMCの利上げで債券も安全資産でなくなったのがきっかけという推測もあるが、肝心の米金利は別に上がっていない。あくまでもS&P 500のクラッシュに揺さぶられてのリアクションに見える。激しくぶん投げたのが恐らく個々の社債発行体を調査しておらず、代わりに他の資産をモニターしやすいETF投資家であったこともそれを裏付けている。クラッシュの影響としては、12月はこのままでは過去10年以来初めてハイイールド債発行がなかった月になりそうということで、企業の資金繰りに多少の悪影響が出る可能性はある。一方、どこかの銀行がハイイールド債を大量に抱えており、この値動きで薄い資本を食われてシステミックリスクに発展する、などということはこのご時世ありそうにない。また、Fedは当然ある程度株価指数もモニターしているが、株が下がったからと言って金融政策を変えることはなさそうだが、債券、特にクレジット周りのクラッシュにはより注意を払っているはずだ。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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