表題通り、中国で「職探し」の検索頻度が急上昇していることが一部で話題になっている。デレバレッジ運動が招いた景気後退は投資、景況感、消費に続いて雇用にも着弾しているわけだ。
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 原典に当たる精神で、本家がブロックされている中国でGoogle的役割を果たしている百度(Baidu)が公開している百度指数を使って「找工作(職探し)」を検索してみたら、確かに2018年年末にかつてないほど検索頻度が高まっている。この指数には明確な季節性があり、転職や募集が集中する春節(旧正月)明けが毎年のピークとなる。足元は春節がまだ来ていないにもかかわらずこの盛況である。2018年以前のスコアは足元と比べるとどれもドングリの背比べだが、よく見るとチャイナショック直前の2015年春節がピークであった。つまり、「職探しの検索頻度」だけを見るとチャイナショックの数倍のショックが来ていることになる。

 なお、このデータが本当に頼りになるのかということで、筆者が知っている限りの中国語ワードを検索してみた(無料ユーザーは限られた定型ワードしか検索できない)。
baidu caiyuan
「裁员(リストラ)」:こちらも急上昇している。前回の急上昇はやはりチャイナショックの時であり、雇用状況の悪化を裏付けるものである
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「失业(失業)」:こちらはなぜか目立った変化がない。なおスコアの絶対値は「仕事探し」と桁が二つ違うので、構造的にあまり話題にならないかもしれない。
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「股票(株式)」:こちらはチャイナショックの時がダントツで多かった。あれから人民の株離れが進んでいるのか、2018年の上海株の暴落は全く話題になっていない
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「买房(住宅購入)」:チャイナショック後の金融緩和により不動産バブルが始まるに伴って増えたが、最近は購入規制や予算不足で話題にならなくなったようだ。
 Baidu Credit
 番外編として「没工作怎么办信用卡(無職のクレカの作り方)」が2017年前半に急増していた。ちょうど不動産バブルの最中に筆者が「消費者ローンで頭金を借りて住宅を買う」やり方を批判する記事を書いた頃である。
 

公式失業率というギャグ


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 雇用の話に戻ろう。中国の公式GDPに寛容な筆者でもこれだけはギャグと考えているのが、過去15年間にわたって4%±0.2%の間に収まってきた公式失業率である。これは都市住民の中で行政機関に失業を届け出てハローワークサービスに登録している人をカウントしたものであり、ハローワークを利用するつもりがなければわざわざ届け出るインセンティブがない。出稼ぎ労働者(農民工)はもちろんスコープ外である。

 中国当局ですらこれが海外の失業率統計と比較可能な数字であるとは考えておらず、公式の場でも平気で矛盾する数字を出して来る。李克強指数で知られる李克強首相は2013年にFTへの寄稿「China Will Stay the Course on Sustainable Growth.」で5%という調査結果を挙げており、どうも上の登録失業者数とは別に調査が行われていることが明らかになっているが、残念ながらその結果は公開されていない。
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 2010年の第六回人口調査においても雇用状態がアンケートに入っており、その都市部分を集計した失業率が年齢ごとに発表されている。加重平均を取ると都市部で5.6%という数字が見える。一方農村部は農業があるため1%程度にとどまったという。残念ながら大規模な人口調査は10年に一回程度しか行われないため、その後のデータは入手できない。

CIER指数

CIER
 時系列データとしては2011年から始まった、中国人民大学中国就業研究所と大手求人サイト・智联招聘の共同プロジェクトでCIER(中国就業市場景気)指数というものがある。これは1994年創立で1.4億人・400万社が登録する「智联招聘」の求人データを分析することにより労働市場の景気を指数化したものである。図は2018年第4四半期のレポートから取ったもので、青が求職者数、黄色が求人数、グレーが景気指数である。2018年全年にかけて求人が減り続けたのが見える。
CIER Sectors
 セクターごとに見ると、製造業からサービス業へのシフト()が進んでいることが分かる。雇用情勢が良いのは教育、仲介、ネット・Eコマースなどであり、悪いのは航空宇宙・資源鉱業・紙・電力などである。
CIER enterprise
 企業規模別の雇用情勢。大型(左)が常に最もよく、中小企業が2017年から2018年にかけて元々悪かったのが更に悪化している。と、何のサプライズもない。
CIER PMI
 季節性を排除したCIER指数と製造業(上図)・非製造業(下図)と並べると、それなりに連動しているようだ。こちらもサプライズがない。逆に言うとPMIを見ていれば失業率のデータを入手できなくても雇用情勢はだいたい予想できる。

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CIER(中国就業市場景気)指数  

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。