China Current Balance
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 2019年に入って中国が矢継ぎ早に打ち出す財政拡張策に対する市場の期待は高い。足元の指標がどんなにパッとしないとしても財政(減税)さえ控えていれば無視しても許される雰囲気があった。もちろん個人所得とVATの双方の減税は長期的に経済に有益であることは間違いないが、こちらも無限に効くわけではない。今が2016年であり、これから2017年のように中国の財政・金融緩和が世界景気と資産価格をブーストする、と前のめりに決め付けるのは危険ではないか。
 
 チャートは中国の経常収支である。上図のグレーの線(青線の平均移動)と下図の「Balance」は同じチャートである。2001年のWTO加入以来、中国は貿易黒字を中心に巨額の経常黒字を積み上げて来たが、フロートしての経常黒字は足元で急速に減少しつつある。下図の内訳によると、緩やかに減りつつある貿易黒字を、インバウンドで知られるサービス収支(海外旅行の支出)が急速に侵食しつつある。この勢いが続くなら2, 3年以内に経常赤字転落も現実的となる。減税などで消費をブーストしたところで、それがサービス収支赤字として流出するだけなら経常赤字転落が加速すると思われるし、たとえ当局がそれを気にせずに財政拡張を続けたところで、経常赤字に抗って人民元相場を(例えば対ドルレートの7.0を)維持しようとすると外貨準備を取り崩すことになる。この外貨準備の取り崩し(外貨準備のバランスシート縮小)はグローバルにQT(Quantitative  Tightening)として効いてくる。
 
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 2018年春以降のグローバルリスク資産下落局面では中国の金融緩和(QE)に期待する声もあったが、結局それらしい金融緩和は行われなかった。金融緩和を大々的に進めると利上げを続ける米ドルとの金利差が逆転し、資本流出と人民元安を招くからである。当局が人民元相場の対ドルレートを死守しようとする限り、おのずと金融緩和の限界は決定される。なおその後、皮肉なことに米中貿易戦争による景況感悪化とFedのスタンス変更によって米国の政策金利は中国の7日リバースレポ金利に追い付く寸前で頭打ちになってしまい、米中短期金利逆転は避けられた。

 2019年になり金融緩和に代わって財政拡張が話題になったものの、財政拡張は今度は経常収支によって制約されるわけである。もっとも、教科書的には財政拡張は高金利と(クラウディングアウトと)それを見た海外資金流入による自国通貨高を招くとされる(実際足元では債券・株式指数への中国資産組込みによるインフローも期待できる)が、もし何かの間違いで高金利通貨高になったら更に劇的に経常収支が悪化するだろう。先進国は一時的に中国から染み出した内需をエンジョイできても、近い将来に新興国型の金融危機の伏線を張ることになる。或いはサービス収支悪化を食い止めるために海外消費制限(今でも爆買いへの関税適用を強化している)という手を打ってくるのも現実的である。いずれにしても、打ち出の小槌というものは存在しない。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。