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 一時は通貨危機が落ち着いたように見えるトルコリラが再びきな臭くなっている。3/31のトルコ統一地方選を前に通貨安を恐れるエルドアン政権が再び市場への介入を始めている。図は1,200%まで急騰するトルコリラのオーバーナイトスワップ金利。
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Reserve
 トルコのGDPは2018年の通貨危機の後遺症である高金利で傷んでいる(上図。こればかりは中銀に介入してでも金利引上げを阻止しようとしていたエルドアン大統領が正しい)。その中で更に米軍のシリア撤退で軍事費の高止まりや、ロシア製S400対空ミサイル購入問題を巡って米国との対立が再燃する懸念、更に外貨準備減少(下図)への懸念でトルコリラは売られ気味であった。トルコリラの下落加速に対するトルコ当局の反応は極めて政治的であった。まずトルコリラの売り推奨を出したJP Morganを調査すると発表して国際市場の失笑を買った。

 次にトルコ政府はトルコ系銀行に対し、国外の投資家とのスワップ取引に応じないよう命じたという。トルコリラを保有していなかった海外投資家がトルコリラを売り持ちにしようとするとスワップでトルコリラを保有している銀行から借りて来ないと決済ができない。その借りるレートが禁止令によってオーバーナイトで年率で1,200%を突破する場面もあったという。この状況が1年間続けばトルコリラを貸し出すだけで元本の12倍以上の収入を得られるわけだ。2018年に「経済への打撃」を避けようと、通貨下落・インフレ亢進下でもトルコ中銀に利上げしないよう介入していたエルドアンと同一人物とも思えない高金利化である。

 「自国通貨の借入金利を持ち上げてショーター勢をスクイーズする」のは古典的な通貨防衛策である。1,200%という数字を見れば驚くかもしれないが、この利回りが1年間も続くわけではないので年率換算は意味がない。1997年のアジア金融危機に際してタイバーツがヘッジファンド勢の売りに晒されるとタイ銀行はバーツのオーバーナイト金利を年率3,000%まで引上げたことがあるし、後に香港金融管理局(HKMA)も年率300%まで引上げたことがあった。しかしそれでも香港を除いて各国当局が通貨防衛に軒並み失敗したのは、実体経済の方もその高金利に耐えられない、従って通貨防衛のための高金利は長く続かないと見透かされていたからである。香港だけは後ろに中国が控えていたこともあって通貨防衛に成功したが、それでもハンセン指数は半値以下まで暴落、一人当たりGDPが1997年水準まで戻るのに10年かかるなど、むしろ大人しく通貨を切り下げた国々よりも傷が深かったかもしれない。その後新興国は金利引締めによる通貨防衛を発動せずに済むように外貨準備を厚く積むようになった

 中国だけはいまだに通貨防衛のためにかなりカジュアルにオフショア人民元(CNH)の流動性締上げを行っているが、これはオフショア人民元市場がオンショア人民元(CNY)市場から切り離されており、CNH金利(HIBORやCNHスワップ金利)を締め上げてもオンショア実体経済に影響を与えないからである。隔離されたオフショア通貨市場という自由に爆撃できる核実験場を持たないトルコが形だけ真似しても、実体経済へのインパクトが避けられないため意味がないと思われる。
nikkei
 実際、為替スワップの流動性締め上げを受けてトルコの債券、株式が激しく売られた。トルコリラの空売りがそんなに多くないと思われる中で被弾したのは、トルコの経済にポジティブな見方を持って為替ヘッジ付きでトルコの株、債券に投資した海外投資家と思われる。彼らは為替ヘッジを続行できないなら原資産も売ってトルコリラ市場から換金しなければならない。その結果、トルコの株式と債券は下落し、トルコの短期国債金利は急騰した。

 本ブログは昨年10月に「トルコリラを今から売る理由がない件」を投稿し、その後トルコリラは対円で一時10%余り上昇したが、今回の騒ぎで上昇幅を吐き出しつつある(4ヶ月分のキャリー分は残ったか)。足元のスワップ金利もそれなりに魅力的になっているようだが、あぶり出されたショートよりも海外のヘッジ付き投資家が多いならスポットが上がりやすいわけではないし(むしろ味方が傷んだ分長期的には資金流入が細る可能性が高い)、そのうち(選挙通過などで)スワップ金利が低下してくると改めてショートに晒されやすくなるため、リスクを取るのが危険になりつつある。流動性の問題もあるため、買っても売っても損する可能性が高そうに見える。

 また前回のトルコリラショックもそうだったが、小さな新興国の極端な値動きを見て笑っているとやや時間差を置いて市場全体が不安定化に襲われる展開も想定される。特にFedハト化を見て新興国に突っ込んだ参加者などは、万人のコンセンサストレードだったブラジルレアルの暴落と合わさって元気がなくなっている可能性がある。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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