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 米金利のブルスティープニングが続いている。3月末のFOMC後の2019年利下げ織り込み(下図)は米中の好調な景況感指標が相次いだ4月になって一段落したものの、足元では再び首をもたげている。一時4割まで低下していた利下げ織り込みは再び6割台まで上昇した。また1年後の予想政策金利変動幅(上図)は3月末に-40bp(利下げ1.6回)から一時期-20bpまで反発したが、再び-30bp台に突入している(常識的に考えて25bpが一回分)。
 
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 利下げ織込みが再燃しているのは、前回の記事でも触れたAverage Inflation Targetの議論がくすぶる中で足元で米国の物価上昇モメンタムが失われつつあるためだ。シカゴ連銀総裁エヴァンス(ハト寄り)は4/15の講演後の質疑応答で「低インフレは利下げの根拠となるか」とロイター記者に問われた時、「もしコアインフレが、例えば1.5%まで低下した場合」「たとえ失業率が低水準にとどまっていても、利下げの根拠になる」と述べている。もちろんそこまでの鈍化の可能性は低いとエヴァンスは付け加えているが、足元で低下し続けているコアPCEデフレーター(上図赤)が1〜2年以内に1.5%を付けない保証はなさそうだ。またコアPCEデフレーターの低迷の結果、実質政策金利は上昇を続けており(引締め方向に作用し、下図)、Fedの中立実質政策金利の予想中間値に近づいている。原油高の影響はコアPCEデフレーターでは(短期的には)控除されている。
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 本ブログが取り上げたAverage Inflation Targetはまだまだマイナーな話題であり、我々はFedのハト化を「パウエル議長のトランプ大統領の怒りへのチキり」と過度に単純に、政治的に捉える傾向があるように思えるが、その思考回路をたどると「米株が過去最高値付近に戻ってきた今はトランプの怒りが遠のくため、再び利上げコースに戻るだろう」という単純な結論にたどり着きやすい。本ブログもその考え方でやってきた。しかし、2014年の異次元金融緩和第二弾に際しても我々はアベノミクスとは単なる円安誘導であり、インフレターゲット理論などというのは円安誘導の隠れ蓑ではないかと思っていたが、原油安対応などという反社会的な理由で日銀が本気で追加緩和を敢行したではないか。中銀の行動を過度に政治的に、ゴシップ的に解釈するのは危険である。意外とちゃんと論理に沿って動いているかもしれないのだ。
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 興味深いことに、前回の記事で本ブログがやや米長期金利ベアビューのコンテクストで問題提起した「2y -10yスプレッドの10bp -20bpレンジを抜けた場合のフォロースルー」はちゃんと観測されている。しかし本ブログが想定したベアスティープニングではなく、短期金利の更なる利下げ織込みによりブルスティープニングが実現している。「利上げのハードルが相当上がったことは間違いない。非現実的になったと言っても良いだろう」「ここからの利下げもまずないだろうと思えてしまうのだが、それ以上に確実に利上げがないなら利下げ宝くじを買っておく方が面白いと思えるのだろう。 その人数が多ければそれなりの利下げ織り込みが持続する」 と本ブログは市場の利下げ織込み継続を正当なものと見ていたが、まさか更に進行するとは思っていなかった。
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  ところで、ブルスティープニングとはいえ、スティープニングは巷で話題になっていた「リセッションを預言する2y -10yの長短金利インバート」から遠ざかったことを意味する。1-3月期の景況感の小反発をもって「米金利が正しく大幅に上昇してゴルディロックが終了する」と見ていた勢は見事に裏切られたようだ。米株との齟齬も指摘されるが、市場が織り込んでいるのは「1998年型の利下げ」だそうだ。アジア金融危機やLTCMショック、そして米株の瞬間的な調整はあったが、基本的に米経済が堅調な中でグリーンスパン議長(当時)は予防的な利下げを敢行し、その後のITバブルの下地を作った。2y -10yはそれまで今と同じくベタッと0に張り付いていたが、この予防的利下げのおかげで(ブルスティープニングは一瞬だったが)2000年まで2y -10yインバートは持ち越された。エヴァンス理事も1998年型の利下げに対してまんざらでもない
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 とはいえ筆者にはまだ「Fedがトランプ大統領の意向と関係なく利下げで高圧経済・米株バブルを積極的に作り出す」というストーリーにあまり現実性を感じていないのが正直なところである。エヴァンス理事の主張もあくまでも彼の意見である。ただ、それに先立って米国以外の中銀が次々とハト化していくことによってもたらされた米ドルの独歩高については「外貨建て債務が重い新興国にストレスがかかることになり、中期的にはあまり嬉しい展開ではないように見える」としていたが、実際にMorgan Stanleyが再現したFCI(金融ストレス指数)にドル高は引締め方向のインパクトを与えていたようであり、ドル高への驀進もFedの選択肢を狭めていくものだ。とりあえずは4月のFOMCで温度感を探ることになるだろう。

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*チャート、画像は主にツイッターなどWebから取得 

この記事は投資行動を推奨するものではありません。