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 米国とイランの間で急に緊張が高まっている。まず13日にホルムズ海峡で日本のタンカーなどが何者かによって攻撃され、更に20日には米国の200億円もする無人偵察機・グローバルホークがホルムズ海峡でイラン軍によって撃墜された。戦争の可能性すら取り沙汰される中、刻一刻と変わるヘッドラインを追いかけても仕方がないので、ここはあえてイランの歴史、特にイランが表舞台に出てきたイラン・イラク戦争から考えてみようと思う。

 1979年のイラン革命で西側が支持していたパフラヴィー国王が追放されてイランがイスラム共和国化し、更に国王の入国を米国が認めたことから米国大使館人質事件まで起き、イランと米国の関係は決定的に悪化した。1980年には革命への干渉戦争として、親米親仏のサダム・フセイン率いるイラクがイランに侵略戦争を仕掛けた。イラン軍は王朝時代に国王が石油収入を使って趣味で購入した、今でも軍事マニアの間で話題に上がるF-14を筆頭に米国製の先進的な兵器を保有していたが、米国との関係悪化によりメンテナンスが行き届かず今ひとつ活躍できなかった。更に革命に際して国軍の将校の多くが粛清、左遷されて指揮系統が混乱していたこともあり、緒戦ではイラク軍が順当に圧倒的な優勢であった。
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 しかし、とある軍の組織が将校の粛清などでガタガタになっていた場合でも「土台の腐った納屋は入り口を一蹴りするだけで倒壊する」と軽視するのは危険である。緒戦で混乱することはあっても聡明な下士官や兵士が揃っていれば、戦場の激しい淘汰圧の中で圧倒的な学習と成長を遂げることができるのだ。特に人口大国としてのイランのポテンシャルは高かった。役立たずのエリート国軍に代わって民間から義勇兵を集めた革命防衛隊が活躍し、文字通りの人海戦術でイラク軍を押し戻した。後続部隊のために革命防衛隊の少年兵が集団で地雷原を歩いていく光景を覚えていれば、イランが軽い気持ちでちょっかいを出してはいけない相手であるのはすぐ分かるだろう。革命防衛隊はこの功績により確固たる地位とイラン経済を牛耳る利権を手に入れた。一方イラクの方はと言うと、石油収入を使って世界中から兵器を買い集めていた中東最大・世界第四位の軍事大国になっていたにもかかわらず、また人海戦術を取る素人集団を相手に化学兵器を米国の黙認の下で「大量かつ頻繁に、ほぼ公然と」使用したにもかかわらず、それでも戦争は引分けで終わったという、かつての韓国軍と南ベトナム軍と並ぶ米帝の走狗にふさわしい醜い戦いぶりだった。

 なお莫大な犠牲と負債を生み出したサダム・フセインは、自分達がアラブ(スンニ派世俗主義)世界の守護者として血を流していた間にクウェートがボロ儲けし、米国もコントラ事件でイランに兵器を売却し、更にイスラエルがイランと手を結んで背後から攻撃してくるに至って米国に使い捨てにされたことに気付く。この気付きが既に米国にとって用済みになった彼の死に繋がる。
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 湾岸戦争でもイラク戦争でもイラク軍は米軍に瞬殺されたが、それを理由にイラン軍も同じように瞬殺されるとは到底言えないだろう
。イランはイラクの4倍の国土面積と2倍の人口を擁しており、その国土は山に囲まれ、平原と砂漠からなるイラクよりも米軍が苦戦したアフガニスタンに近い。というより、弱体なイラクを湾岸戦争で叩き、更に10年以上の経済封鎖で徹底的に弱らせた瀕死のイラクと戦ったイラク戦争ですら米国も(後始末も含めて)国力を消耗し、10年以上も中国に頼らないと経済成長できない身体から脱出できなかった。その米国がイランとこれから戦争など始めた日には没落が避けられず、中国はブッシュ政権に壁際まで追い詰められた後にイラク戦争が始まった時のように起死回生を喜ぶことになるだろう。
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    当然米国当局も学習能力があるので、軽い気持ちでイランと戦争を始めそうに見えない。「一発だけなら誤射かもしれない」とは茶化しすぎであるにしても、一般的に戦争状態にない相手から偶発的な攻撃を受けることはよくあることで、それを口実に全面戦争に持ち込むかどうかは攻撃を受けた側の選択であり、別に戦争が避けられなくなる訳ではない。トランプ大統領はボルトン大統領補佐官やポンペオ国務長官が賛成したイランへの軍事攻撃を10分前に止めたとTwitterで自賛しているが、個人的にはブラフにすぎないと思う。もし止めなかったとして一体何ができたというのか。イラン近海に配置された空母打撃群は先月送り込まれた「エイブラハム・リンカーン」の一個しかなく、日米仏カナダの艦隊が入り乱れる南シナ海よりも手薄である。弾道ミサイルも多数保有しているイランの広い国土にトマホークを数百発ピンポンダッシュしたところで、中東のポチ同盟国を危険に晒すだけだ。たとえ戦争を始める決意が固まったとしても今日明日に戦端が開かれることはない。

 緊張状態が続く中で無人偵察機を領海スレスレに飛ばしたら撃墜される可能性も当然あるだろう。3年前にトルコ軍も領空を侵犯したロシア軍のSu-24を問答無用で撃墜している(なおその時の米国のコメントは「トルコには自国の領土と領空を守る権利がある」であった)。イランに至っては2011年にも米国の無人偵察機をサイバー攻撃によって無傷のまま捕獲している。タンカー攻撃事件の方はいまだに全容を掴めないが、少なくともイラン当局があえて客人である安倍総理に恥をかかせるつもりはなかったはずだ。とすれば巷で言われるようにイラン当局がより強硬派である革命防衛隊をコントロールできていないのかという話となるが、革命防衛隊が米軍に喧嘩を売りたい理由もよく分からない。もちろんイラン当局としてはせっかく核開発を緩めてまでしてオバマ政権と関係正常化したのにトランプ政権がそれを反故にして制裁を再開しており、米国を信用してはならないという認識を新たにしたに違いないが、それだけで戦争したくなるほどではないはずだ。

 一方、トランプ政権の方もボルトンやポンペオをコントロールできているかどうかが怪しいのでお似合いの相手である。トランプ大統領については「ディールだけを望んでいる商売人と見るのは過小評価である」という声もあったが、少なくとも明らかに苦難に満ちた無駄な戦争を望んでいない。元はというとボルトンやポンペオを止められるような大物をみんな首にしてしまっているのが悪いのだが。

 というわけで99.9%あり得ないと思うが、万が一米国・イランが戦争に突入した場合、まずインフレ要因となる。第一次石油ショックは中東戦争、第二次石油ショックはイラン革命をきっかけにそれそれ起きた。またイラク戦争とその後のイラクのグダグダはリーマンショック前の140ドルまでの原油高の遠因の一つとなった。狭いホルムズ海峡が封鎖されればタンカーの保険料も上がるだろう。イラク戦争では米国の双子の赤字が悪化してドル安が進んだ。米金利と米ドルのダブル安を見ておけば間違いないだろう。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。



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