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10 year yield
 レバレッジドローン(バンクローン)ファンドからの資金引き揚げが一部で話題になっている。日経記事によると、2009年から9.6兆円が流入したレバレッジドローン市場に、2018年秋から既に4.1兆円が流出したという。レバレッジドローンの説明は以前の記事に譲ろう。そこまでメジャーなマーケットではないが、某農家のお金を集めた巨大金融機関をはじめとして日本の投資家が多く、その分日本での注目度は割りと高い。この資金流出は「素早いスマートな投資家が金融危機の前兆に勘付いた」証だろうか。

 日経が「債務の宴の静かな異変」「2008年の金融危機のころに構図が似てきた」と表現する資金流出の背景について、出落ちで申し訳ないが米国の10年金利と並べたのが上の図である。リセッションが終わりQEで米金利が下がりきり、低格付けクレジットへの恐怖心が薄れた頃にレバレッジドローン祭りは始まった。それからの資金フローは概ね米国の長期金利の動きに連動してきた。低格付けクレジットへのエクスポージャーを取ろうとした場合、選択肢はレバレッジドローンと固定利付のハイイールド債の二つがあるが、レバレッジドローンは変動利払いである。従って、これからベンチマーク金利が上がりそうと思われる長期金利上昇期には人気になり、長期金利下落期には人気がなくなる。
 

レバレッジドローンは利回り低下で不人気に

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 2017〜2018年のように好景気で米国の利上げが続くに決まっていると思われていた頃、利回りがどんどん上がりそうなレバレッジドローンを買わない理由はなかった。一方で2019年になるとFedは一転して利下げサイクルに入り、世界中で金利が大幅に低下した。それを受けて利回りを求めて資金が債権市場をさまよっているが、レバレッジドローンは選ばれなかった。2018年冬のクラッシュの後にS&P 500などは最高値を更新しているが、レバレッジドローンは淡々と資金流出が続いた。Fedの利下げに連動して利回りが低くなったし、更に低くなりそうだからである。

受け皿にならなかったハイイールド債

High Yield flow
 やや気になるのは、だからと言ってその資金がハイイールド債に振り向けられたわけでもないということである。図は米国ハイイールド債の資金フローであり、貿易戦争が盛り上がった5月と8月に大きな流出、他の月は慎重な流入と一進一退が続いている。リテールならETFのBKLNとHYGの間で悩めば良いが、レバレッジドローンをCLOに組成してもらっていた機関投資家は利回り低下を見てローン投資の配分を減らすことはあっても「じゃ来期からハイイールド債の銘柄を選んで投資しよう!」となるわけではない。

リターンは好調

BKLN
HYG
 機関投資家が中心の市場とはいえ、バンクローンのETFは上場しているので我々はそのリターンを監視することができる。資金フローが景気悪いとはいえ、投資の損益で言うとレバレッジドローンBKLNもハイイールド債HYGも絶好調である。ただし金利低下に弱く、キャピタルゲインがあまり見込めないレバレッジドローンはハイイールド債にやや劣後した。このあたりの市場が火を吹くとしたら少なくとも利回り上昇(価格下落)局面がやって来ないと話にならない。

みんなが大好きなコベナンツ・ライト

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  なお、レバレッジドローン市場の危うさについて語られる時に必ず取り上げられるのは「コベナンツ・ライト」である。コベナンツとは、借入を希望する企業が、一定の財務比率等について金融機関にその遵守を約束し(財務維持コベナンツ)、仮に企業がその約束に違反した場合は融資を回収するといったものだ。企業の財務環境が一定程度悪化すれば、企業が破綻する前に融資が回収できるため、金融機関は貸倒れのリスクを大きく削減でき、またCLOの投資家も投資リスクを減らすことができる。コベナンツ・ライトとはその制限条項を緩和したローンであり、レバレッジドローン全体に占める割合(図)も増えて来た。これは利回りを獲得するためにより大きなクレジットリスクを取ろうとする投資家が増えて来たことを意味する。これはもちろん将来のリセッションにおいて投資家が被るであろう潜在的な損失が大きくなることをも意味するが、現在の市場や経済状況にインプリケーションを与えるものではない。強いていえば借り手が有利、投資家が強気すぎ多すぎて不利であるというくらいか。

投資家が減っても資金調達環境はじゃぶじゃぶ

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 いずれにしてもレバレッジドローン市場に異変が起きているにしてもそれが直ちに破滅的なイベントを招くとは考えづらい。そもそも低格付け企業の利払い負担が減っていく(図は米国ハイイールド債の発行利回り推移)予防的利下げ局面でクレジット市場が崩壊するのは、利上げ局面で崩壊するよりもずっと難しい。レバレッジドローンと金融危機を招いたサブプライムローンは「ローン」という言葉だけが共通点であり、CLOはCDOと「CとOという文字」だけが共通点である、などと茶化したらバチが当たるだろうか。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。