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 新型コロナによる経済活動停止に伴いグローバルで財政出動ブームが来ており、経済活動が止まっても財政出動、特に直接ばら撒きにより資産価格は徐々に安定に向かいつつあるが、その調和をぶち壊しかねない幽霊が世界中を徘徊している。格付け会社である。

メキシコ「BBB」に格下げ、見通しネガティブ 新型コロナで=S&P 
ムーディーズ、南アをジャンク級に格下げ さらなる逆風に 

 もちろん、今のところ新型コロナ被害や財政出動そのものに対してケチが付いているわけではなく、メキシコは原油安を受けて、南アはむしろ今まで甘やかして来たが不思議なくらいであったが、成長を重視するS&PはともかくMoody'sは財政出動により財政収支が悪くなると容赦なく格下げして来た前歴がある。特に日本が2014年に追加緩和第二弾と共に消費税増税を見送った時にMoody'sが間髪入れずに日本を格下げしたのは記憶に新しい。新興国、先進国を問わず、一時的に成長鈍化 +財政パッケージの打ち出しで財政収支が悪化すると格下げの波が襲ってくる可能性もあるだろう。

 しかし、現に財政出動をすると格下げされるから経済活動を停止させた後に財政を出せず詰みである、という状況に近い国はまだないし、格付け機関もまだそのような言動をとっていない。またたとえそうなっても政府は人命より格付け会社の目を優先すべきではない。グローバルの一斉財政出動で一斉に格下げされても赤信号みんなで渡れば怖くない。

 企業に対しても営業停止や減便で財務が傷んだ各国の航空会社をはじめとして事業会社の格下げラッシュが来ており、新型コロナとの闘いで苦労する中で格付け会社は企業の背中を刺しに来ている。非常時で一時的な悪化である、という言い訳は通じづらい。しかし、経済活動停止に直接影響を受けない企業の社債のスプレッドも普段時の倍や3倍まで広がっており、今更たとえ3ノッチや6ノッチくらい格下げされたところで歴史的に見ると格下げ後の格付けに対して割高ではない。格下げラッシュが来た時にハゲタカのように優良企業の社債を安く拾ってやろう、と考えている人は待ちぼうけになる可能性が高い。

 なおメキシコは幸運にも昨年「Wall Street’s biggest oil trade」「World’s largest financial oil deal」と呼ばれたOil Hedging Program、具体的にはブレント連動プットの大人買いにより今年分の原油売上げを既に1バレル49ドルに固定しており、少なくとも今年分の原油売却収入は守られている。

 南アの方は「ジャンク級となったことで、世界国債インデックス(WGBI)から除外される。アナリストはこれにより最大で110億ドルの(南ア国債の)投げ売りがあると予想している」そうだ。本来3/31付けで指数から除外されるはずだが、足元の債券市場の流動性の悪さを気遣って指数ベンダーFTSEはインデックス落ちを後倒しにした。しかしよほどグローバルで債券流動性が4月になっても回復しない、などにならない限り、4月末でインデックスから除外されるされる可能性が高いだろう。

 インデックスへの連動を目標とする債券のパッシブファンドのうち、最も硬直的な組は4月30日にドカンと投げることになりそうだ。もし除外前に先回り売却すると、確かに除外日までにZARや南ア国債が売られたら指数対比でアウトパフォームできるが、もし逆に何かの拍子で値上がりしたら指数対比でパフォーマンスが見劣りしてしまう。多少の先回りによる不確実な利益よりも、万が一、万が一にも更に除外が後ろ倒しになった日には(コストを払って買い戻すか買い戻さないかの会議を経て)担当者のキャリアが死んでしまうので、それでも多くのパッシブマネージャーは少なくともFTSEから確定通知を受けない限り、数週間も前からは先回り売却しないだろう。ZARは月末に向けて徐々に売りフローに晒される可能性が高そうだ。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。