Chongtai
 新型コロナのロックタウンから真っ先に脱却したものの経済回復に苦労している中国について、本土系の中泰証券が「我が国の新規失業は7,000万人を超え、失業率は20%程度」とするレポートを発表して大騒ぎになっている。公式アカウントからレポートは削除されてしまったが、このブログで供養してみようと思う。曰く、1)公式失業率は経済指標からあまりにも乖離している 2)二種類の公式失業率はどれも改良が必要 3)失業率は20%前後 4)落込みには乗数効果がかかるのでV字回復どころではない である。

 中国の公式失業率には都市部登記失業率と都市部調査失業率の二つがある。前者は公的機関に届け出た人数の統計であり、後者はサンプリング調査である。ものすごく無理にこじつけをすれば前者が米国の新規失業保険申請件数、後者が失業率に近いが、どちらも経済の他の指標との相関は低く、ギャグに近い数字として扱われることが多い。
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 登記失業率の統計の取り方は同じ中泰証券のレポート内でも「企業や雇用主の報告」と「公的機関への失業届け出の統計」の二通りがあるが、特に後者の使えなさは以前より話題になっている。特に失業保険の額は最低賃金よりも低く、後で登場する農民工などは最初から雇用主に加入してもらえていなかったりするので、わざわざ届け出るインセンティブがあまりない。ハローワーク的な機関に行ってもどうせ家政婦の紹介ばかりであり、親戚や知合いに頼んだ方がまだ早い。この登記失業率は2003年以来ずっと4%台で安定しており、例えば景気と連動するとされる発電力伸び率とは無相関であり、中泰証券は「業界によって参考指標とされることは少ない」と一刀両断している。
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 調査失業率は都市部の人民へのサンプリング調査であり、こちらはとても歴史が浅い。「全国労働力調査制度」に基づいて半年一回の調査が始まったのが2005年であり、リーマンショック後の失業状況を把握するためにようやく31の大都市で月次調査が始まった。範囲が全国の都市部人口の半分をカバーする65大都市まで広げられたのは2013年であり、2016年にようやく全ての都市まで広げられた。こちらも2018年以来5%近辺での安定推移が続いており、やはり発電量伸び率とはほとんど相関がない。調査そのものはまともそうなのにどうして景気がブレてもブレないのだろうか。
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 レポートはここから中国の二元経済に飛んでいる。有名な話だが中国人民は都市戸籍と農村戸籍に分断されており、同じ都市部で就業していても身分や統計での扱い方が異なる。農村戸籍で他の省の都市部に出稼ぎして年末も都市に在住する「農民工」は2018年時点で1.35億人存在しており(チャートでは一時的な出稼ぎも加えて1.7億人)、それに加えて農村で農業生産に従事する農民が2億人いるため、合計で3.35億人と中国の全就業人数の4割を占める。この4割を占める農民工は基本的に失業統計から排除されている。これは軽視というより、故郷に帰って農作業に従事するという選択肢があるので定義上失業とカウントしづらい。しかし、それでも都市部で働きたかったのに不本意に農作業に戻らざるを得なかった人々を失業していないので問題ないと言い張られるとモヤモヤするのも事実である。なお公式統計によると農民工の職業は第二次と第三次産業で半々ずつ、細かく分けると製造業27%、建築業19%、小売12%、交通運輸倉庫陸運7%、飲食宿泊7%、その他サービス業13%となっている。
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 今回のコロナショックではサービス業への打撃が大きいのが特徴であり、新規失業保険申請3000万件を叩き出した米国の例でも低学歴低年収の職を中心に失われている。中国の場合も失業圧力をまず農民工がバッファとなって受け止めたことは想像に難しくない。1960年代に失業対策として都市部の若者達を「上山下郷」で農村部に送り込んで人生を破壊して以来、中国共産党政権は不況時の雇用のストレスと社会保障コストを一貫して農村部に押し付けてきた。21世紀になってから大々的に行われてきた農村部へのばら撒きには贖罪的な意味もある。
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 国家統計局によると2018年の中国の労働者総数は7.8億人おり、うち第一次産業が2億、第二次産業が2.1億、第三次産業が3.6億人となっている。第二、三次産業の5.7億人のうち個人事業主はおよそ1.5億人おり、残りが被雇用者である。個人事業主1.5億人のうち1.2億人は第三次産業に集中しており、これは第三次産業従事者の37%、中でも外食・観光では76%を占めている。個人事業主と法人の非雇用者のそれぞれの失業率を中泰証券は収入減から推定していく。
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 前回の記事でも少し触れたように、中国の各業界の中でも第三次産業の方が回復が鈍く、中でも外食・宿泊が最も遅い。GSがHualalaのデータから計算した飲食店の決済件数は5月に入ってもコロナショック前の4割減にとどまっている。この飲食の4割を上限として個人事業主の3割が開店休業状態と仮定すると1.5億人のうち4,500万人が失業したことになる。

 法人の方でも第三次産業の中で打撃が大きい小売、交通、外食宿泊などの被雇用者は9,300万人に達する。1Q GDPの中の小売が17.8%減、交通が14%減、外食宿泊が25.3%減なので15%が失業したと仮定すると第三次産業の法人部門の失業者は1,400万人となる。自動車、家具など製造業の就業者は1,400万人であり、そのうち10%が失業したとすると140万人となる。
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 更に輸出減による雇用への打撃が加わる。2018年時点で100万米ドルの輸出が作り出す雇用は40人であり、1Qの輸出減13%と合わせると雇用減1,000万人に繋がりそうだ。以上を合わせると実に7,000万人となり、失業率で言うと20.5%、もし帰郷した農民工を除けば6%付近と、都市部公式調査失業率とそこまで矛盾しないそうだ。なお米国の失業率は足元で14.7%である。

 もちろんレポートでも断りを入れているように、法人雇用は収入に比例して直ちに削られるわけではない。これが一過性と信じられているウィルス騒ぎによるものであればなおさらである。個人事業主は収入がなくなったら確かに失業と変わらないが、3割の収入減は3割の事業主に集中するわけではない。従って収入減からそのまま推定するのは雇用数減は眉唾である。1Qの農民工の出稼ぎ人数は例年の1.7億人から1.2億人に5,000万人も減っており、7,000万人という推測を補強しているが、農民工の職業と個人事業主が多い職業は必ずしも被っていない。一方で、失業自体も消費減に繋がるので更なる波及効果を持つ。一部の人だけが失業しようと業界全体で痛みを分かち合おうと、波及効果は似たようなものである。なお中泰証券以外にもUBSがサービス業で5,000〜6,000万人、更に製造業と建築業で2,000万人が失業、と概ね同じ推測を4月に立てている
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 米国の例を見ても分かるように、失業対策がきちんと行われていれば失業数そのものは大した問題ではない。しかし、中国の支援策はあまりにも企業向けに偏りすぎて失業者個人へのばら撒きが足りていない。South China Morning Postの記事によると1Qに政府から失業保険が支払われたのはわずか230万人であり、額は一人当たり月額1,350元($190)である。中国がデフレに転落しつつあるのもそれが背景であるし、中国が時間的には真っ先にロックダウンから脱出したにもかかわらず「真っ先の経済回復」が全く話題にならないのもそれが背景ではないか。そもそも中国が「第三次産業主導」でチャイナショックから立ち直れたのも棚改などでばら撒きを行ってきたおかげであるわけで、それにあぐらをかいて失業対策を怠るとせっかくのタイミング的な優位も生かせないまま他国対比で経済回復で劣後することになるだろう。
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 明るい話としては、政府からのばら撒きがしょぼくてもロックダウン明けから時間が経って経済が修復されて農民工が戻ってくる可能性も残ることである。百度指数が示す「失業」の検索数は3月にピークを迎えてから一応減りつつある。

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