Fed Total Asset
 コロナショック以来急速なペースで拡大してきて、異論なく足元の株高の背景になったFedのバランスシートは、6/17までの週で初めて縮小に転じている。背景としては、非常時に導入されたいくつかの流動性供給措置が役割を終えつつあることが挙げられる。
US-Fed-Balance-sheet-2020-06-18-repos
 減り始めたのはまず国債を担保に貸出を行うレポオペレーション残高である。6/11にFedはレポオペレーションをやや引締めており、オーバーナイトレポオペ金利と1ヶ月物タームレポ金利をIOERフラットからそれぞれIOER +5bpとIEOR +10bpまで引き上げた。それを受けて資金調達する側にとってレポオペレーションの使い勝手は落ちている。
US-Fed-Balance-sheet-2020-06-18-swaps-country
 海外中銀向けの米ドルスワップ供給残高も減り始めている。こちらは国際市場での米ドル逼迫に対して拡充され、Fedから各国中銀、更に米ドル供給オペで各国の金融機関の米ドル不足を埋めさせたものであるが、国際市場での米ドル調達環境が改善するにつれてECB, BOJ, BOEの各中銀は一斉に米ドル供給オペのペースを落としている。需要が減ってきた1週間物オペは毎営業日から週3回になった。春のドル高局面から一転しての足元の米ドル安相場も米ドル調達環境を緩和させたようだ。
US-Fed-Balance-sheet-2020-06-18-Treasuries-wow-change-
US-Fed-Balance-sheet-2020-06-18-mbs-2020
 これはFedの金融緩和から引締めへのスタンス転換を意味するのか。レポファシリティにしろ海外中銀向けスワップラインにしろ緊急時の流動性対策であり、流動性対策の縮小は金融市場の正常化を意味しているにすぎない。冒頭のチャートの青線で示されるFedの証券現物保有は増えつつある。米国債の保有は(他のいろんなファシリティの用意が整う前は国債買入れ加速しかできることがなかった)3月にドカンと増えてからすぐ元のペースに戻ったが、MBS, CMBSはむしろ後から加速している。もっともなぜ流動性供給より証券保有が偉いのか、と言われるとやや怪しい。過剰流動性を作り出すという意味では二つとも同じである。むしろ米国の機関投資家が低金利になった国債を売却してもその代金で株を買えるかというと何かと制限がかかるのに対し、海外勢がスワップラインを通して借りた「元々使うつもりで足りなかった米ドル」の方が米株投資なり海外貸出なり、国なら財政拡大に使われるので何かと意味が深いかもしれない。それでも、現物購入のペース維持は少なくとも「米金利上昇で株がクラッシュする」という懸念が完全な杞憂に終わったことを示唆する(金利が著しく上昇したとしても慌てて売るようなまとまった株ポジションを保有しているリスクパリティファンドは足元では少ないので、この議論は二重にアホらしい)。いかなる形であれ、特にインフレの兆候も見られない緊急時にFedが大々的な金融引締めに動く可能性は薄いもしそうなったら本当にパウエル議長は首になってしまうだろう。

IMG_2559
 コロナショックで導入された各ファシリティの今後の推移のGS予想を見ると、二つの特徴があるように見える。一つ目はスワップライン、レポファシリティなどの流動性供給からメインストリート貸出、社債購入などクレジット供給へのシフト。二つ目は総額はあっさり減り得ること。コロナショック以来拡張されたBS規模は4兆ドル程度であるが、流動性ファシリティの減少により5000億ドル程度は減り得る。この「流動性供給からクレジット供給へのシフト」は実体経済への支援という意味ではむしろ緩和の強化であるが、一方で供給した流動性の大半は回収されてしまう形となる。
IMG_2593
 ここで気になるのは、パンデミック前の記事でも触れた「FedのBS規模の変動を見てはパブロフの犬のように右往左往する」動きが顕在化する可能性である。パブロフの犬は字が読めないのでBS縮小の中身を解しない。「BSが拡大する」を材料に買い上げてきたなら縮小は直ちに買いの手仕舞いのきっかけになるかもしれない。
ft treasury
IMG_2529
 また広義のパブロフの犬とも言えるが、過剰流動性による壮大な株高というストーリーも一部では語られてきた。Fedの国債買入れ拡大に伴い、売り手の売却代金にあたる約2兆ドルはFedの超過準備やMMFとして短期市場に滞留しているわけであるが、これらの運用利回りは0%近辺であり、いずれ配当利回りが乗っている株にシフトして壮大な流動性相場になるのではないかという憶測である。春のパブロフの犬の記事でも本ブログは「銀行はレポでお金を借りられた、或いは保有する短期国債を売れて手元資金が増えたからと言ってポンと株を買えるわけではない」としてきたが、同じように国債を高く売れたからと言ってすぐに同じ金額の株を積んで株式のボラティリティを受容できる体制の投資家は限定的である。更に、このマネーは国債増発で吸収される可能性が高い。例えば短期国債T-Billの残高は既に2兆ドル増えており、ちょうど売却代金と同程度である。利回りが低いからと言って投資家が大挙してMMFを解約して株購入に動くと、増発されたT-billの引き取り手がいなくなる。もちろんそうなった場合はFedが更にMMFの購入を加速させれば解決できるのだが、そうなると今から決め打ちできるわけではない。長期国債を含めた国債市場全体でも同様であり、春から足元にかけては財務省の国債発行とFedの国債買入れの合計はネット吸収が続いたが、Fedの国債買入れペースが再加速しない限り今月か来月以降にはネット発行に転ずる可能性が高い。ネット発行が続けば「壮大な過剰流動性」とやらは遠くないうちに吸収されるだろう。国債を発行した財務省から国民の手に現金が渡って初めて本当の意味での過剰流動性が生まれる。国民の手に渡っていないマネーは全て見せ金である。

 さて資産価格への示唆。春のパブロフの犬の記事は直後にコロナショックがやってきてそれどころではなくなった。広義パブロフの犬である過剰流動性期待はどこかで剥落すべきであると思っているが、一方もしBS縮小が大々的に話題になる場面がやってきてもそれは世界の終わりではない

関連記事

Fedのバランスシート拡大が曲がり角に 

出口戦略との闘い ~FED バランスシートは縮小~ 第一生命経済研究所 

この記事は投資行動を推奨するものではありません。



コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット