China PPI CPI  
 11/10に発表された中国のPPI伸び率は年率13.5%に達し、これは実に26年ぶりとなる。グローバルで供給制約やコモディティ価格上昇などによりPPIの高止まりが続いているが、中でも中国の伸び方はやや極端である。
China PPI breakdown 2
China PPI breakdown
 先月の石炭価格についての記事では「電力供給が増えれば計画停電・操業停止は改善されることになるが、一方それまで電力会社が高くて買わなかった分の石炭も買えるようになるため、石炭価格は続騰することになる。またコストが需要側に転嫁されるため物価上昇圧力に繋がるだろう」としていたためこの展開は特段不思議ではない。10月PPIも明らかに石炭価格上昇の影響を受けており、値上がりセクターは石炭がダントツであり、PPIの引上げ要因で見ても化学、石炭、非鉄金属、石油と、石炭及び電力の大口需要家が上位に並ぶ。
China Coal Iron ore 
 もっとも10月後半になると中国政府からの強い増産圧力と値下げ圧力によって石炭価格は急速に下落し、11月に入ってから10月のピークの半分まで落ち込んでいる。前回の記事では政権の締付け強化によって石炭の増産余力が減衰したことを取り上げているが、政治運動的な増産キャンペーンによってどうも生産能力は回復したようだ。それに加え取引所価格の調査、採掘コストまで調査した上の販売価格制限といった強権の発動が石炭価格の急落を演出した。
China Coal Inventories
 港湾の石炭在庫は10月を底にかなりの勢いで積み直されている。
China Steel Inventories and Blast furnace Occupancy rate
 前回の記事では石炭や電力価格が上がって需要も落ち込みそうなので重厚長大産業は開店休業状態に落ち着きそうとしていたが、鉄鋼を例にとってもその傾向が見て取れる。高炉の稼働率は急速に落ち込んでおり、にもかかわらず鉄鋼在庫は例年並みの緩やかさでしか減少しておらず、これは需要側が先に減速したことを示唆している。このあたりを見るとPPIのピークアウトは極めて近いと思われる。
China Imports
 開店休業状態なら他の原材料もいらなくなるので、鉄鉱石と銅の輸入も急減速した。

 PPIが爆騰するといずれ企業がコストを消費者に移転しようとするためCPIにも伝播するのではないかという疑問は日本についてもよく聞かれる。内需が旺盛であり、また消費者向けの生産能力が国内で揃っていない国々には不思議に思えるのだろう。現に冒頭のチャートが示すように中国のCPIは今月になってやや上昇したので、Bloombergの記事日経新聞の記事も消費者への移転について触れたくて仕方がないように見える。しかし残念ながらCPIの上げは石油関係と食品(野菜)が主導しており、コアCPIは低迷したままであるのでPPIのCPIへの移転ストーリーは全く筆が進まない。これは本ブログが何度も主張してきたように、中国は主要経済体の中で唯一コロナショックを緩和するための直接給付を国民に対して配らなかったからである。原材料が値上がりしたと言われたところで、給付金をもらっていない消費者が取り得る選択肢は「高いので購入をやめる」以外にないのである。
China Exports
 企業からすると輸出が爆増しているので、あえて弱い国内需要に付き合わなくても輸出を頑張った方が儲かる。
Shanghai Los Angeles Container Freight
 その結果たとえば上海・ロサンゼルス港間の貨物運賃などは一時爆騰していたが、これも米国の年末商戦用の受注ラッシュが一段落すると反落が始まった。
China PPI and Industrial Output Growth
 そもそももし海外特需がなかったなら、国内需要ごときのために生産するくらいならわざわざ値上げされた電力を使う価値もない。更に供給制約も効いているようで、普通PPIが上がると儲かるので生産活動が活性化するはずのところ、工業増加値(工業生産の伸び率)はむしろ下がっている。コロナ後の中国ではどんなにインフレーションが話題になっても、少し落ち着くとやはりデフレーショナリーな構図しか見えてこない。

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