トランプ相場を通過して日銀のイールドカーブコントロール(YCC)運営がようやく安定化してきたところで、またしても日銀のテーパリングが取沙汰されている。

 安倍政権がプライマリーバランスの2020年黒字化目標を放棄したことを受けて、財務省出身の黒田総裁も「2%物価目標を断念」する政策変更の兆候がある、というのが重点。黒田日銀が発した3つのサインはいずれも正論だ。マネタリーベースさえいじればインフレ期待が生まれ、実際にインフレ2%に近づいていくという当初のリフレ理論が完全に間違いであったと立証されたので当然である。しかし、この記事は全体的にやや根拠が推論に頼りすぎ、「円高、円金利高」という結論が先行している感が否めない。或いはどこかで既に結論を仕入れており、後付けでロジックを考えたのか。

  素直に考えるとインフレ2%は未達なので、YCCの解除など金融政策を引き締める必要は全くない。安倍首相に「二度裏切られた」ことだけをもって、黒田総裁がヘソを曲げて異次元緩和を投げ出すだろうか。あえて人間観察に持っていくなら、確かに日銀総裁として黒田総裁は非常にプライドが高そうだ。80兆買い入れの維持が困難という声が市場で流れると、意地を張ってマイナス金利を導入して大失敗している。しかし、2014年のハロウィン緩和で「消費税増税のお膳立てをしたのに裏切られた時を含め、黒田総裁がこれまで安倍首相に対して何らかの意趣返しをした形跡はない。黒田総裁が愚民である下々の市場参加者に対して意地を張ってきたからと言って、自分を引き上げた上位者である安倍首相に対しては従順でないとは言えない。そもそも、ハロウィン緩和が本当に消費税増税のお膳立てであったかも怪しい。国民生活よりも2%のインフレ目標を重視するのであれば特段不自然な行動ではない。

 一方、確かにYCCと80兆の純買入目標は(今こそ現場の献身的な運営で成り立っているが)構造的には両立し得ないので、長期的にはどちらかを放棄する必要がある。しかし、素直に考えてYCCの誘導金利を引き上げたらそれを実現するのに必要な買入量は更に減少し、更に80兆から遠ざかるので、80兆の方を変えずに金利だけ引き上げるのは説明が必要ではないか。米国も利上げはQE3の終了後に始まっている。従って金利の引き上げよりも買い入れペースの引き下げの方が先になるはずだ。買入目標を45兆に減額とした木内元審議委員の提案の正しさを認めて寄り添う、という形は本人の在職中は執行部として癪だっただろうが、本人がいなくなってかえって実現性が増した可能性という見方もできる。ただ、逆説的だが、仮にたとえば60兆に減額しても、市場は次の40兆を織り込みにいくため、市場に逆らってYCCを維持するのに意外と量を消費する可能性がある。一方、円金利が自然体で上昇方向に向かうと見ているのであれば、今まで温存して来た80兆をそのまま使い切ってYCCを維持するという選択肢もある。円相場の運命はこのどちらのシナリオに動くかによって決まるはずだが、後者は全く話題にのぼらない。

 以上により早期テーパリングの可能性は薄いと考えているが、実際にもしテーパリングが来たらどうなるかというと、マイナス金利導入時の反応を鏡に写した形になると思われる。マイナス金利導入では銀行株が暴落、引きずられて指数も下落し、リスクオフで10円以上円高になったことを考えると、テーパリングでは銀行株が暴騰し、指数も堅調になり、リスクオンにより円高も限定的になると思われる。 マイナス金利導入で上昇したのは不動産とJREITのみなので、こちらも反転すると思われる。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。