2018年2月に米株がクラッシュした理由として「米国の金利上昇」が挙げられている。しかし、米国の金融政策は今年になって急に引締め方向に転換したわけではない。サブプライムショックの経験からすると、金融政策の引締めの行きすぎ(現実のインフレ以上に利上げが激しい)で株がクラッシュしているなら、同時に金利カーブはフラットニングするはずだ。いわば「市場はFedよりも低インフレを正しく見通しており、Fedは失敗した」説である。ところが、今回クラッシュは金利カーブのスティープニングを伴っているという意味で珍しい。
US 2y 10y 
縮小を続けていた米国国債の2年10年スプレッドが1月になって拡大している。
US break even
米国のインフレ期待を表す10年ブレークイーブンは2年10年スプレッドとよく連動するが、2017年末から先立って上昇している。そう考えると名目金利の1月のフラットな水準での逡巡は慢心の結果か。

 金利と株価の複雑な関係はこちらのガンドラック氏の警告についての記事にある通りだ(が、この記事では大フラットニングさえしなければ良いと油断していた)。期待インフレが上昇したのは新興国の好景気がもたらしたコモディティ高と、これまでのGDP成長と雇用状況の良さのおかげだが、犯人を株高要因とされていたトランプ減税に求める声もある。低インフレ(ゴルティロック)からのリフレーションが引締めへの警戒をもたらしたという意味では1987年のブラックマンデーと似ている。ついでにドル安への不安と、VIXやらリスクパリティやらポートフォリオ・インシュランスといった「新しい、よくわからないもの」が株式相場急落を加速させた犯人にされるところまでそっくりだ。

 テクニカルには、そもそも同じ金利リスクを取るなら長期債よりも短期債の方が収益率が良い。10年債の金利リスクは2年債の5倍弱あるが、利回りは2018年初頭時点では2年債の1.5倍にもなっていない。それでも2017年において多くの投資家が短期債より長期債を選好し、金利カーブをフラットニングさせたのは、「インフレに全くならないままFedが短期金利を引上げ続ける」というストーリーに強い自信を持っていたからだ。それが揺らいだ瞬間、短期債も、短期債より収益率が悪い長期債も一斉に要らない子になる。

 また、サブプライムショック前のFed利上げ局面でのフラットニングを支えたのは新興国を中心とする海外からの長期債買いだったと言われているが、それはドルの価値が保たれることが前提である。2018年のようにトランプ減税で債券安ドル安に備えねばならない中、海外勢が米国債を買うのに為替ヘッジを付けるしかないとなると、非常にざっくり言って米国との短期金利差を払わなればならないので米国の長短金利差しかもらえない。従ってフラットニングするに連れて海外から見た米国債の魅力は薄れていく。ドルの価値が担保されさえすれば、オープンで短期債も長期債も金利が上がれば上がるほど喜んで買いたくなるものだが、ドルの価値が安定しない限りスティープニング要因となる。そういう意味では、トランプ減税がスムーズな出口政策の障害になったと言えなくもない。

 年初の記事では、

「コアCPIは2017年は低迷したが、米国の物価はGDPに6四半期遅行することがわかっているため、2018年には2%をタッチするかしないかというところまでは戻すだろう。2017年年末からコモディティ高で既に米国の10年ブレークイーブンは上向いている。米国利上げは2018年3回がコンセンサスだが、これより減ることは考えづらい。議長がイエレンからパウエルに交代するが、最初の年は独自色を出さないだろう。よって今年こそは2.7 -3.0に向けた緩やかな長期金利上昇を予想する。フラットニングするにしても利上げ幅を全部食いつぶすわけにはいかないだろう。機関投資家にとって2017年は前半に買えなかったら負けだったため、2018年年初は「どうせ利上げしてもフラットニングするんでしょ」との慢心の下で、長期債を中心に積極的に積みに行く動きが優勢となるか。そして積み終わったところでいい感じにCPIが上がってくるだろう」

としていたが、わずか1ヶ月で「どうせフラットニングするんでしょ」と慢心で債券を積んできた債券投資家は収益と決断を迫られている。デジタル化やら途上国のインフラ整備やらで「構造的に」インフレになりづらくなっている、とドヤ顔していた投資家は、1920年代に「恒久的に高い高原」を信じていた参加者と同レベルの勘違いをしていたわけだ。熟考と会議の末、確実に利上げが控えている2年や5年を外してキャッシュにしよう、で対応する、或いは既にしていそうだが、果たしてそれでお茶を濁せるのか。

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