ドル高金利高により新興国が相次いで火を噴いている。新興国通貨は幅広く売られているが、特にひどいのはトルコとアルゼンチンである。後者は通貨防衛のために40%まで利上げを行った後、諦めてIMFの支援を要請した。
EMB exposure
 ここで新興国のドル建て債券に投資する有名なドル建てインデックスETF、Blackrockが運用するEMBに登場して頂こう。EMBはJ.P.Morgan EMBI Global Coreインデックスに連動するパッシブファンドである。話題に上がった二ヶ国はそれぞれ組込み比率で3位と5位にランクインしている。債券自体はドル建てなので直接通貨の暴落の影響は受けないものの、通貨が暴落すると当然ドル建て債券のリスクプレミアムも上昇するため、EMBも大きく売られている。暴落とデフォルトですっかり小さくなってしまったが、昨年半ばまでベネズエラのドル建て国債をも2%台保有していた。
EMB chart

 新興国債券のインデックスファンドが、数ある新興国の中で火を噴いた二ヶ国を組込み上位に置いていたのは偶然だろうか。ドル高米金利高局面では外貨建て債務残高が多い国が危うい。元々お金が足りないのに返済すべき債務が激増するからだ。より正確さを期すると国の経済規模次第でもあるのでGDPなり外貨準備なりとの比例を取るのが良いだろう。IIFは「全債務に占める外貨建て債務の割合」を示しているが、見事にアルゼンチンとトルコが群を抜いている。経済規模次第とはいえ、外貨建て債務残高の絶対値そのものも、脆弱性にある程度の影響を与えるファクターの一つにはなり得る。
IIF
 ここでインデックスファンドが世の中の株や債券をどう保有しているかを思い出すと、多くは時価総額に比例して保有している。株式の時価総額が大きい会社の株式、債務の時価総額の大きい国の債券をより多く保有するわけだ。インデックスファンドは外貨建て債券残高の大きい脆弱な国を選んで多く保有しがちなのである。
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 これは新興国各国の米ドル建て公的・民間債務のランキングである。新興国のメンツを見てみるとだいたいEMBの保有残高上位と共通だ。(EMBが国債中心なのに対してこのランキングは民間のドル建て債務を含んでいるので正確に比例するわけではない)

 確かに効率的市場仮説では全市場の全資産に分散投資するのが最も効果的と言われている。それを先鋭化させたのが、ここ最近「マネージャーが投資先を能動的に選ぶアクティブファンドは付加価値を出せない、インデックスファンド投資こそ正解である」という風潮である。しかし、世の中の資産をただ時価総額通りに保有するのが果たして正しいのか。株式でもインデックス通りに高成長が難しい巨大企業に投資を集中するのが効果的なのか、議論が分かれている。百歩譲って株では問題ないとしよう。「債務残高の大きい国や企業の債券をより多く保有する」の正当性には明らかな疑問が付くのではないか。(規模や収益・経済状況にもよるが)債務残高が大きい発行体ほどデフォルトリスクが大きいのではないか。ならば時価総額でない重み付けを考えろ、というならそれは再びアクティブファンドの範疇だ(J.P.Morgan EMBI Global Core Indexの場合は高債務国には上限が設けられており、余った分を低債務国に振り分けるという工夫もしてくれているようだ)。

 もちろん、国のデフォルトリスクは既にリスクプレミアムに正しく反映されているので、プライシング通りの確率で破綻してもそれまでの超過収益とバランスしているからそれで良いのだ、という効率的市場仮説からの反論もあるだろう。たとえそうだとしてもパッシブファンドがリスクを大きく取っているポートフォリオであることを認識しながら投資すべきだ。株においてもパッシブファンドの方が利食いしない常時全株フルロングであることのアナロジーでもある。ただ掌を返すようだが、新興国のアクティブファンドなら通貨危機に陥る国を回避できると主張しているわけではない。

    また、新興国ドル建て債券インデックスファンドが投資に値しない、あるいはかつてのXIVのような欠陥があるファンドであると主張しているわけでもない。ドル建て国債の集合なので、本国通貨建てと違って通貨安になっても債券と通貨のダブル安でやられるわけではないし、新興国とはいえ年に何ヶ国も外債デフォルトに見舞われるとは考えづらいだろう。アルゼンチン、ブラジル、メキシコくらいしか新興国ドル債投資の選択肢がなかった昔と比べてだいぶ国の分散も効いてきている。大きな危機やデフォルトの後に買って寝ていれば長期的には悪くないのではないかと思える。