TPX Banks
 6/21に東京銀行間取引金利(TIBOR)が1週間ものでマイナス0.008%を付け、1995年の公表開始以降で初めてマイナスになった。ロンドンの銀行間取引金利(LIBOR)はマイナス金利導入後に外銀を中心にマイナスレートを提出してきたのでとっくの昔からマイナスになっていたが、国内貸出の基準金利であるTIBORはマイナス金利政策にも関わらずプラス圏を維持していた。実際の貸出は3ヶ月ものTIBORを基準にすることが多いのでまだ理論上もプラスとなるが、1週間がパラダイムシフトしてしまい「TIBORはマイナスにならない」神話が崩壊した以上、そちらも風前の灯火となっている。

 TIBOR 3ヶ月ものまでマイナスになれば、変動金利でTIBOR +数bpという形の貸出契約の適用金利は理論上マイナスになり得る。もちろん、今の法解釈では貸し手が金利を払うことを想定していないため、仮に理論上マイナスになったとしても0%で貸出を行うことになる。しかしそれでも0%で集めた預金を、人手を使ってデフォルトリスクに晒されながら0%で貸出すという衝撃的なまでに劣悪なビジネス環境になる。

 「TIBORを巡っては実際の市場の動きを反映できていないとの指摘があり、運営機関が17年7月に算出方法を見直していた。日銀がマイナス金利政策を導入して以降は短期市場で翌日物の資金がマイナス金利で取引されており、TIBORの1週間物がマイナスに転じるのは自然な動きだと評価する向きもある」とのことだが、TIBORのORはOffered Rateであり、「そこなら喜んで他の銀行に貸す」というレートである。確かに限界的にはレポなどでマイナス域で調達することはできるだろうが、銀行の本業の調達金利である個人の預金金利は0%だ。大半を0%で調達した資金をマイナスで利回りで他行に貸せるというのはどういうことか。

 今までマイナス金利政策に対してTIBORで有形無形な抵抗を示してきた銀行の最後の砦が崩れ、貸出金利の一層の低下が織り込まれるなら、銀行株は上がりようがない。貸出をマイナス金利から守ると同時に預金からもマイナス金利を徴収できないことになっているが、「サービスの対価として」手数料を設けることを禁止していない。預金者に対してTIBORを上回る、不当に高い金利であるゼロ金利の預金サービスを提供し続けることは、銀行の資産を毀損させながら利益供与を行うことに他ならない。銀行株の株主は預金手数料の徴収を求めて株主訴訟を視野に入れるべきではないか。それが銀行が大きなウェイトを占めるTOPIX株主のためでもある。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。