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    本ブログで取り上げてきた 人民元の下落リスクがようやく具象化している。新興国通貨全般の弱さに紛れながらではあるが、2017年年初の7.0から6.3までの上昇幅を概ね半戻しした形となる。背景にある材料は米中金利差の縮小、貿易戦争による経常黒字減少懸念といった教科書的なものだと思われる。
 
    人民元下落といえばチャイナショックを思い出す。2015年8月に中国当局が人民元の対ドル基準値を急落させたため、グローバルで激しいリスクオフとデフレ輸出懸念を引き起こした。それまでは人民元の対ドルの固定上昇相場がファンダメンタルズから乖離していたのに対し、中国当局は外貨準備を使って介入で支えていた。切り下げはその歪みが致命傷になる前に修正したのであり、後から見ても正しい施策であったものの、短期的には世界中に消化不良を起こさせた。特にオフショアで取引される人民元(CNH)に海外勢からの売りが殺到した。それに対して中国当局が外貨準備を切り崩しながら買い支えを続けたが、次に外貨準備の枯渇が懸念されて詰みの一歩手前まで行った。
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    オフショアの参加者が人民元の下落リスクを強く意識するようになると、オフショア人民元CNHがオンショア人民元CNYよりも早く下落した。その結果、CNH-CNYはVIXと相関を持っていた。
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    図は人民元と原油。奇しくも2015年前半の切り下げまでの人民元相場に原油相場から乖離した直角三角形上ができており、これが蓄積された不均衡に当たると見て良いだろう。
China 10 year
US 10 year
 では今回の人民元の下落のファンダメンタルズ的背景はと言うと、中国が2017年の金融引き締めから2018年の「インフラ建設引き締め、金融緩和」に転換したことから再び米中金利差が縮まっている。「インフラ建設拡大、金融引き締め」がいわば人民元安圧力に対抗するための戦時体制であるとすれば、2018年になってこれを反転させつつある。
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    足元ではCNHCNYレートは1近辺で推移しており、特段偏りを見せていない。海外からのCNHベアポジションはあまり構築されていない、また中国当局がCNY基準値を実勢よりも高めに設定したりしていないことがわかる。
Forex Reserve
 中国の外貨準備高はトランプ相場のドル高局面で最低値を記録してから2017年中は反転増加を続けたが、2018年に入って再び緩やかに減少に転じている。ただ、これは資金流出に対して再び介入を始めたというより、ユーロ建て資産を含めたドル建ての数字なのでドル高の影響もありそうだ。
FDI
 中国への海外からの直接投資(FDI)中国ハイテク業界への注目や、A株のMSCI新興市場指数への組み入れ開始などで増加トレンドが続いている。1-5月の累積をみるとここ数年の最高レベルである。

 以上を総合すると足元の人民元の下落は金利差に従ったものであり、チャイナショックのようにパニックが伴っているわけではない。また中国当局もどうやら人民元相場に放任スタンスを取っているようなので、政策変更による急激なショックもなさそうだ。ただ、ショックが来なくても人民元の下落そのものはグローバルでデフレ要因となり得る。また貿易戦争(または譲歩)の結果として経常黒字が減少すれば加速する可能性もあるだろう。人民元安には強力な輸出振興効果があるはずだが、トランプ政権は貿易を問題視し、関税を振りかざしている割には無関心のようだ。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。