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 7月に入ってから日本株の一人負けが目立っている。背景としてはETFの分配金による売り需要が挙げられている。日銀のETF買入れもあってETFの資産総額が増えており、ETFの挙動が市場にインパクトを与えている。東証一部の時価総額600兆あまりのうちETFは30兆程度を占め、うち20兆程度は日銀が保有している。トップのTOPIX連動ETF (1306)をはじめとする6本の巨大ETFの配当支払いは7/8と7/10に集中している。この期間に4000億円程度の分配金を捻出するための資産売却が予想されているようだ。

 インデックスETFは、普通なら投資家が様々な株の配当をもらって株のエクスポージャーが減って手元のキャッシュが増えるところを、管理する運用会社が配当を受け取り次第、即座に株式指数先物を建てて再投資している。代わりに年に1回や2回の「ETFとしての配当」を投資家に配分する。この仕組みによって東証1300銘柄の配当落ちが人為的に特定の日に集中する。分配金を払い出してファンドが小さくなると再投資で建てた先物の買いポジションもいらなくなるので、分配と同時に売られる。

 つまり日銀をはじめとするETF投資家は、普通の現物投資家が配当を受け取って株のエクスポージャーが減る場面でフルインベストメントを続け、代わりに7月8日から10日にかけてエクスポージャーを落とす。分配金を受け取った投資家はそのうち再投資するであろうから長期的には影響はないはずだが、短期的には人為的な売り買いの波が作られているわけだ。

 では、売りフローがあるのはわかったとして、本当に7/10前後は株は下がりやすいのか。TOPIXの過去5年間の7/10(休日なら前日)までの5営業日のトータルリターンを調べた。

2017年 +0.07%
2016年 -1.32%
2015年 -4.16%
2014年 -1.52%
2013年 +1.85%

 2勝3敗。下げ幅の方が大きいため平均リターンは-1.47%だった。なお、2013年1月から本日までの全ての5営業日リターンの平均は+0.33%であったため、7/10前は大きく劣後する。5年間の7/10前5営業日トータルリターンを2013年以降の全営業日のリターンとウェルチのt検定を行うと、t= -1.60, 片側P=0.09となるので、サンプルリターンは母集団平均より低いものの、例えば片側95%の信頼区間で有意差があるわけではない(もっとも元よりサンプル数が小さいため有意差は出にくい)。たまたまマクロ環境が悪かった可能性もある。現に2016年は6月にBrexitもあったはずだ。

 次に、マクロ環境による影響を取り除くために、TOPIXと、円建てS&P 500のリターンを複製する東証ETF 1557のトータルリターンとの差を調べた。

2017年 -1.43%
2016年 -1.49%
2015年 -3.53%
2014年 -0.98%
2013年 -0.11%

 0勝5敗。平均してTOPIXの方が-1.51%のアンダーパフォーム。2013年からの全ての5営業日平均では-0.06%と微負けだったが、7/10前後はTOPIXは突出して円建てS&P 500に負けやすいようだ。同じようにt検定をするとt= 2.57, 片側P=0.03と、わずか5サンプルでも1300営業日の日米リターン差に対して有意に低かった。TOPIX単体よりもこちらの方がどうやらアノマリーとして精度が高い。7/10の前はTOPIXを売って現金を保有しても良いし、上げも逃したくないなら米株に避難した方が統計的にお利口だということになる。日銀のETF大量保有はマーケットにアノマリーと呼べるほどの歪みを作っているようだ。

    なお、配当が払われた後は多くの投資家は再投資するはずなので、中期的にはこのインパクトは埋められるはずだ。実際、5年間のTOPIXの7/10以降の5営業日のトータルリターンは平均+3.44%の全勝。

2017年 +0.31%
2016年 +8.60%
2015年 +4.93%
2014年 +1.12%
2013年 +2.23%

 t= 2.06, P=0.05と惜しくも有意水準5%に入らないが、7/10前の下落と比べても有意度が大きい。対1557の7/10以降の5営業日トータルリターン差を見ても

2017年 +0.20%
2016年 +0.66%
2015年 +1.46%
2014年 +0.67%
2013年 +1.02%

 と平均して+0.80のアウトパフォーム。TOPIXは長期的に円建てS&P 500をアンダーパフォームしてきたことを鑑みるとこれは相当の良パフォーマンスであり、t= 4.03, P=0.01と5%どころか1%の信頼区間でも有意に高い。中期的には少なくとも円建て米株対比では分配金によるアンダーパフォームが戻って来る可能性が高いようだ。

 なおこのアノマリーは記事になって世の中に広がりつつあるので、プレポジションが進んでいるのかもしれない。7/4までの5日間では既にTOPIXは-2.21%, 対1557では2.46%もアンダーパフォームしている。これは7/10前5営業日のアンダーパフォームの過去5年間のうち4年を既に上回る水準である。もちろん、ETFの残高は日銀のせいで過去よりも増えているため、インパクトがどんどん大きくなるという考え方もできるので何とも言えない。

この記事は投資行動を推奨するものではありません。