中国金融市場の足元の流動性の回復について野村総研のレポートが解説している。本ブログで既に取り上げた話も多いが、系統立てて解説してくれているので、答え合わせの感覚で取り上げてみようと思う。
7_1.ashx
 諸悪の根源は4/27に中国人民銀行、銀行保険監督管理委員会(銀保監会)、証券監督管理委員会、外為管理局が連名で発表した「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」(以下・指導意見)であった。この指導意見は資産運用業界への指導を通してシャドーバンキングを厳しく取り締まるものであり、著しく効果を上げた結果、社会融資総量を大きく引き締めることになった。この金融環境を引締める指導意見と3月に決まった財政赤字の縮小(財政緊縮)が今回の中国の小さな景気後退の元凶であるようだ。

 それを受けて「7月20日、人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会は、今年4月に実施された「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」に関する通知意見草稿をそれぞれ発表した。指導意見の不明点を明確化し、指導意見の実施を平穏に行うことが趣旨であるが、背景には、指導意見によるシャドーバンキングの取締りの効果が大きく、景気や金融市場に影響が出たことがあると見られる」そうだ。

 わかりづらい文面だが、要するに引締めをやりすぎたから路線を修正するということだ。

「社会資金調達の増勢が鈍化しているのみならず、内訳を見るとシャドーバンキングに関連する委託貸出・信託貸出・割引前手形が上半期は減少(ネットで返済)に転じている。シャドーバンキングの取締りで地方政府・その資金調達プラットフォームや民間企業にカネが流れ難くなっていると見られる」社会融資総量の中でシャドーバンキング関連が選択的に著しく減少が続いている様子は「中国のクレジット環境が早速緩和的に」に詳しい。

「また、7月18日時点で、今年に入ってから計28の債券がデフォルトした。その中の27の債券格付けはAA+以下(AA+を含む)であった。また、債券発行延期・失敗も多く、信用債(社債等)市場の流動性は低下している」 これは「中国社債市場の産みの苦しみ」で取り上げた。なお28社目はAAAからデフォルトしたというわけだ。

 「指導意見」の火消しを行う「通知」ではさらに、(シャドーバンキング消滅の期限とされていた)2020年まではシャドーバンキングについて「金融機関は既存商品を発行して新たな資産に投資してよい」とした。オフバランスなのに銀行が暗黙の保証を与えていたとされるシャドーバンキングを、オンバランス投資に切り替える(「中国のクレジット環境が早速緩和的に」でシャドーバンキングが減って銀行貸付が増えている図にその兆候が見られる)のに伴い、劣後債発行を支持する。「中国人民銀行が政府の財政緊縮批判で漢気を見せる」で取り上げた論文では劣後債として他の金融機関にばら撒くよりも国が資本注入しろと主張していたようだが。

「要は、金融機関による非標準化債権類資産の圧縮ペースを緩める一方、必要な分野での資金調達確保が趣旨であると思われる」「ここで、最近の金融当局の動きを振り返ると、6月24日に、中国人民銀行はターゲットを定めた(定向)預金準備率の引下げを発表した。不良債権処理の一環である「デット・エクイティ・スワップ」や小・零細企業の資金調達難と高コストの問題を緩和が目的である。また、7月18日には、中国人民銀行が貸出と社債等の投資を促すよう銀行に中期貸出ファシリティー(MLF)資金を供給する、との報道も流れた」
「これらを総合して考えると、中国の金融当局は、金融リスク防止という今年の大きな任務は変わらないにしても、足元の景気、金融市場に対する不安感を払拭する方向に動いていると考えられる」

 要するに再び金融緩和の大波で全てを洗い流してしまおうというわけだ。

関連記事

中国のクレジット環境が早速緩和的に
中国人民銀行が政府の財政緊縮批判で漢気を見せる
渦中にある中国社債市場の詳細データ
中国社債市場の産みの苦しみ
中国の金融政策が緩和的に傾く可能性
中国経済が急激なデレバレッジに耐える

この記事は投資行動を推奨するものではありません。