
ことの始まりは華金の夜だった。7/20の22時頃に時事通信が「日銀、長期金利目標の柔軟化を容認」と静かに記事を発表した。今まで0%を中心に±0.10%の幅でコントロールされていた日本の10年金利が、今後(7/31金融政策決定会合以降)は更に上昇しても日銀がコントロールを試みなくなるということで、日本国債先物が夜中に50銭(5bp程度)も急落。それからの一週間は荒れに荒れた。それまで動かなかった米金利も一気にベアスティープに転じ、一方ドル円は上昇する米金利を無視した。会合前日の30日に至っては、今までのレンジ上限だった10年の+10bpレベルで提示された無限指値オペでは1兆6400億円の投資家の投げ売りが見られ、パニックの様相すら呈した。
結局蓋を開けてみると、概ね世の中の予想通りの結果となった。ということは7/20の時事の観測記事は本物のリークであった可能性が高い。本ブログでは当日朝に
と予想していたが、果たして目玉部分の「YCCの長期金利許容幅を今までの倍にあたる±0.20%に拡大」はほぼ予想通りになった。実質的にはシンプルな金利上昇容認(=YCCの後退)。既に半ば忘れ去られている量はノータッチ。これでは海外勢などから緩和縮小と取られかねないので、「2019年10月の消費税引上げまで現在の低金利政策を維持する」というフォワードガイダンスを付け加えている。
フォワードガイダンスとは「非伝統的な金融政策」のうちの一つであり、「中央銀行が将来にわたる金融政策を表明することにより緩和効果を目指す」ものである。非伝統的な金融政策とは金利が既にゼロまで下がって利下げ(伝統的な金融政策)が行き詰まった後の追加的な緩和手段であり、フォワードガイダンスの他に量的緩和や質的緩和、マイナス金利政策といった有象無象が含まれる。「単なるゼロ金利」よりも「ここから3年間ずっとゼロ金利ですよ」の方がなんとなく緩和的に感じられるだろう。フォワードガイダンスはあたかも今回初めて導入されたかのような表現がなされているが、実は白井元審議委員の2013年の講演をたどると、「日本銀行は早くも1999 年に、他国に先駆けて(ゼロ金利政策導入に伴う)ゼロ金利制約に直面し、その下で金融緩和政策の一環としてフォーワードガイダンスを導入しており、パイオニア的な役割を果たしてきました」「日本銀行では、現在のコミュニケーション戦略をフォーワードガイダンスとは呼んでいませんが、上記の定義(注:市場や国民に対する将来の金融政策運営についての情報発信。2%のインフレターゲット到達まで緩和を続ける、も当然含まれるだろう)に当てはめれば、そのように言うことができるでしょう」と、明言こそしていないが実質的なフォワードガイダンスはアベノミクス初期からあったと示唆している。それを古い酒を新しい袋にと言わんばかりに改めて大々的に打ち出されているが、多くの市場参加者にとってはあまりにも当たり前すぎて灯台下暗し感があったと思われる。いずれにしろ「少なくとも2019年10月まではマイナス金利もYCCも続きそうだ」という話である。
ETFは年間6兆円というペースの維持。どさくさに紛れて「TOPIX系ETFの買入れを増やす」と「市場の状況に応 じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする」が挿入されている。形骸化した量的目標と同じ、ETFも今後6兆円未達でも構わないと宣言したわけだ。これぞステルステーパリングの真骨頂である。なお量的目標の例を引くと80兆円の目標に対して2017年実績のマネタリーベース増は50兆弱であった。
この枠組み長期化で解決したかった二つの課題のうち、国債市場への悪影響はYCCの拡大によってボラティリティを与えてあげることで解決を目論んでいる。銀行収益への悪影響の方は、一応YCCの拡大に伴い長期金利が上昇すれば国債投資によるマイナス金利回避がしやすくなる。一方、フォワードガイダンスによるマイナス金利の早期撤廃の希望は断たれたので一概に改善されたとは言えない。それを補うために「政策金利残高の見直し」でマイナス金利徴収額をやや減少させている。ただそれでも銀行株にはフォワードガイダンスの悪影響の方が大きい気もしなくもない。
これらのテクニカルな調整とステルステーパリングの伏線の集合体が今回発表された金融政策である。フォワードガイダンスのせいで発表前からの一部のショートポジションが面白くなくなったこと、前日の指値オペで相当の10年国債が投資家の手を離れてしまったことから足元の円金利はYCCの幅が広がったにもかかわらず低下気味の反応となっているが、中長期的には異次元金融緩和からの撤退戦が静かに始まっていることを忘れるべきではない。
強力と強化を同時に入れているあたり、撤退戦を強化に見せかけようとする涙ぐましい努力が見てとれる。
今後の ETF の買入れの運営について
日本銀行当座預金のマクロ加算残高にかかる基準比率の見直しについて
今月3回の買入オペ減額が為替市場から歓迎される
ステルステーパリング疑惑否定でも進む円高
日銀が再びオペ減額で平地に乱を起こす
リバーサル・レートという今更な概念
「さて何が変わりそうかというと、前提として物価が低迷しているので枠組みを長期化したい。その時の障害が金融機関収益と国債市場の流動性。怖いのは円高。変数は量、マイナス金利、YCC、ETF。量とETFの目標は元よりいつでも形骸化させることができるので、あえて注目を集めなくても黙って減らせば良い。従って少なくとも単体では出てこないだろう。マイナス金利は金融機関をはじめとしてみんなが大嫌いだがもし取っ払ったらYCCを維持できない。従ってYCCの誘導レンジを(±0.25%などに)広げて、表向きには利上げではないので円高を避ける、しかしマイナス部分は意味がないので実質的には単なる金利上限の引上げ、という形に持っていくのが素直な見方。ETFは一部の銘柄の浮動株が減っているなどこちらも持続可能性が問われているが、どさくさに紛れて買入対象を微調整することがあっても注目は浴びないと思われる」
と予想していたが、果たして目玉部分の「YCCの長期金利許容幅を今までの倍にあたる±0.20%に拡大」はほぼ予想通りになった。実質的にはシンプルな金利上昇容認(=YCCの後退)。既に半ば忘れ去られている量はノータッチ。これでは海外勢などから緩和縮小と取られかねないので、「2019年10月の消費税引上げまで現在の低金利政策を維持する」というフォワードガイダンスを付け加えている。
フォワードガイダンスとは「非伝統的な金融政策」のうちの一つであり、「中央銀行が将来にわたる金融政策を表明することにより緩和効果を目指す」ものである。非伝統的な金融政策とは金利が既にゼロまで下がって利下げ(伝統的な金融政策)が行き詰まった後の追加的な緩和手段であり、フォワードガイダンスの他に量的緩和や質的緩和、マイナス金利政策といった有象無象が含まれる。「単なるゼロ金利」よりも「ここから3年間ずっとゼロ金利ですよ」の方がなんとなく緩和的に感じられるだろう。フォワードガイダンスはあたかも今回初めて導入されたかのような表現がなされているが、実は白井元審議委員の2013年の講演をたどると、「日本銀行は早くも1999 年に、他国に先駆けて(ゼロ金利政策導入に伴う)ゼロ金利制約に直面し、その下で金融緩和政策の一環としてフォーワードガイダンスを導入しており、パイオニア的な役割を果たしてきました」「日本銀行では、現在のコミュニケーション戦略をフォーワードガイダンスとは呼んでいませんが、上記の定義(注:市場や国民に対する将来の金融政策運営についての情報発信。2%のインフレターゲット到達まで緩和を続ける、も当然含まれるだろう)に当てはめれば、そのように言うことができるでしょう」と、明言こそしていないが実質的なフォワードガイダンスはアベノミクス初期からあったと示唆している。それを古い酒を新しい袋にと言わんばかりに改めて大々的に打ち出されているが、多くの市場参加者にとってはあまりにも当たり前すぎて灯台下暗し感があったと思われる。いずれにしろ「少なくとも2019年10月まではマイナス金利もYCCも続きそうだ」という話である。
ETFは年間6兆円というペースの維持。どさくさに紛れて「TOPIX系ETFの買入れを増やす」と「市場の状況に応 じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする」が挿入されている。形骸化した量的目標と同じ、ETFも今後6兆円未達でも構わないと宣言したわけだ。
この枠組み長期化で解決したかった二つの課題のうち、国債市場への悪影響はYCCの拡大によってボラティリティを与えてあげることで解決を目論んでいる。銀行収益への悪影響の方は、一応YCCの拡大に伴い長期金利が上昇すれば国債投資によるマイナス金利回避がしやすくなる。一方、フォワードガイダンスによるマイナス金利の早期撤廃の希望は断たれたので一概に改善されたとは言えない。それを補うために「政策金利残高の見直し」でマイナス金利徴収額をやや減少させている。ただそれでも銀行株にはフォワードガイダンスの悪影響の方が大きい気もしなくもない。
これらのテクニカルな調整とステルステーパリングの伏線の集合体が今回発表された金融政策である。フォワードガイダンスのせいで発表前からの一部のショートポジションが面白くなくなったこと、前日の指値オペで相当の10年国債が投資家の手を離れてしまったことから足元の円金利はYCCの幅が広がったにもかかわらず低下気味の反応となっているが、中長期的には異次元金融緩和からの撤退戦が静かに始まっていることを忘れるべきではない。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。