本ブログでは6月以来中国の金融緩和を説き続けたが、いよいよ大規模な金融緩和が現実味を帯びてきている。7/22に中国人民銀行(PBOC)は突如、金融政策ツールの一つであるMLF(中期貸出ファシリティ)を通して5020億元を市中に供給した。当日に予定されていた1700億のリバースレポ操作をスキップしたことにより3420億元(約5兆円)のネット流動性供給となる。7月に満期を迎えるMLFは2000億元未満しかなく、しかも13日に既にロールされているため、7/22のMLFは新規供給となる。
流動性の供給を受けて中国の短期金利は断崖のような下落を見せている。1ヶ月SHIBORは年初から既に150bp近くの低下(利下げ6回に相当)。1年金利でも100bpの低下。これで当局が傍観を決め込んでいる以上、米中金利差で人民元が急落するのは自然な動きである。
中国国債金利カーブの推移。1年前と比べても長期国債の金利低下幅は限定的であり、代わりに短期金利が急低下し、ブルスティープニングしている。これはファンダメンタルズのクラッシュを示唆するブルフラットニングと違って、一応金融緩和に対する反応らしい反応と言えるだろう。
突如の金融緩和は当然、社債や理財商品(シャドーバンク)を通した資金調達が引締めで厳しくなってきたのをカバーするためである。銀行に中期貸出を打ち込むことにより、銀行による社債の購入及び社債・理財商品調達が止まった企業への貸出を後押ししようというわけだ。MLF実行に先立って中国人民銀行が各商業銀行にMLFと引き換えにAA+以下のジャンク債を更に購入するよう窓口指導を行ったとの報道もある。「金融を除いたインダストリアルセクターの貸出とAA+以下のジャンク債購入には同額のMLF、AA以下の購入には倍額のMLF供給をインセンティブとして与えた」「各行ともに毎月30億元の社債購入を電話で命じられた」とさらに極端な噂も流れた。元々MLFはPBOCが銀行をコントロールするための道具の色合いが濃いのでこの手の話は全く不自然ではなく、まさに社会主義経済の面目躍如である。
中央銀行が自ら国債に加えてクレジットリスクを取りにいく行動は非伝統的な金融政策の一環としてあり得る。また規制当局が貸出の総量を規制したり、貸出先の健全性を審査することもあるだろう。しかし中央銀行が商業銀行により高いクレジットリスクを取るように命じるのは珍しい。これは広義のQEに入るだろうが、人民銀行が「最後の貸し手」としてクレジットリスクを吸収する責務を果たす代わりに、商業銀行株主の他人のふんどしで相撲を取っているところに限界がある。もっとも、同時にPBOCが財政拡大と商業銀行への資本注入をパブリックで要求したのを見ると、監督下の商業銀行に火中の栗を拾わせるだけではさすがに忸怩たる思いはあったのかもしれない。
ではこの紐付きMLFは「正しくリスクを評価して行動している銀行に非合理的な行動を強いても、代わりに銀行が損するだけで意味がない」のかというと、そういうわけでもないと思う。「中国社債の産みの苦しみ」で取り上げたように、確かに銀行の運用担当者の無知とリスクを取れない体制に由来するリスクプレミアムは存在するだろう。それを潰すだけでも意味はある。どこの国でも銀行員を動かすには権力の棍棒で殴るしかない。
金融緩和そのものについては下の関連記事で既に十分に取り上げた。なぜアベノミクスと違っていまいち効きが良くないのかというと、一つは上で述べたように商業銀行の資本に頼ったものであるから。もう一つの原因は限界が見えていることだ。中国当局は米中金利差に由来する人民元の下落を放置しているように見えるが、限度がある。例えば3ヶ月や1年金利で米中が逆転したらさすがに収拾が付かなくなる可能性がある。そう考えると短期金利の低下余地もせいぜい100bpというところだろうか。とはいえ、理財商品の取り締まりからクレジットクランチが起きる可能性は低下したと考えて良いはずだ。
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