
人民元安が止まる気配が見当たらない中、前回のチャイナショックと大きく異なっているのは外貨準備高が一向に減る気配を見せないことだ。これが一部では「不可解だ」と言われている。日経の記事は「人民元は変動幅を一定の範囲に制限する「管理変動相場制」とはいえ、潜在的に資本流出懸念を抱える中国当局は、元売り圧力が強まると外準を取り崩して元買い・ドル売り介入で防戦する。その結果、外準は減るというのが市場の常識だ」としている。

果たしてこれは本当に常識なのか。このブログでも使い古されたチャートだが、人民元安圧力に対して防戦が行われているとすればまず当局はCNYを高く設定するはずなので、CNY/CNHが1から上に乖離するはずだ(上図左。チャイナショック)。ところが足元(右)では防戦が行われている様子がない。明らかに中国当局は実弾を温存している。

日経は「それを解く鍵は外準の中身にあるはず。ところが、中国当局は外準がどのような資産で構成されているのか一切、開示していない。第2の謎だ」と言って鍵そのものを飛ばした。続いて明言こそ避けたが、米国が公表している米国債保有残高を挙げながら外貨準備額の信頼性に疑問を投げかけている。

3兆1000億ドルの外貨準備の内、「中国保有分の米国債」は1兆1831億ドル、ユーロクリアがあるベルギー保有分は1505億ドル。ユーロクリアの全在庫が中国の保有分というわけではないので、中国の保有米国債は1兆2000〜3000億ドルの間と言えそうだ。それ以外の2/3については日経は謎としている。ユーロ圏国債やCIC(AUM 941億ドル)への委託やら新興国への貸出やらが詰まっているのだろう、きっと。
資産よりも、気になるのは負債側の中身である。外貨準備が減らないだけでなく微増しているのは企業の外債発行への海外からの投資のおかげと思われる。中国では企業が外債を発行して海外から米ドルを調達した場合、そのまま海外で使うのでなければ人民銀行にドルを預託することになり、外貨準備が増える。チャイナショックで外貨準備が減ったのは、為替リスクに驚いた中国企業が外債発行を減らして返済に動いたのと、人民が外貨預金確保に動いたからである。今回、中国企業による外債発行は増え続けている。中国国内ではそもそも発行が止まっているので、為替ヘッジをかけてもまだドル債の方が有利である(ヘッジをかけるのはこの間からやりづらくなったが)。そしてドル債に買い手が付いている。海外勢のドル債投資による流入が続く限り、外貨準備は減らない。

一方、これは中国の外貨準備の中身がごく一部であるにせよ、「経常黒字や為替介入の蓄積の結果」から「外貨建て負債調達の蓄積の結果」にすり替わりつつあることを意味するかもしれない。たとえば何かの拍子で経常黒字と海外からの投資が突然止まった場合、前者なら使わなければ減らないが、後者では負債償還とともに減っていく。日本の外貨準備(1兆2600億ドル程度≒米国債1兆480億ドル)は全額が前者であり、対外純資産324兆円(2017年末)の一部である。我々の想像する「国が保有しており介入などに自由に使える外貨資産」のイメージに近いのは対外純資産の方であり、中国の対外純資産は日本の2/3弱にあたる205兆円(2017年末、前年比-5兆円)である。外貨準備3兆ドルの残りは「対外純資産でない、借りてきて手元にある外貨」である。従って外貨準備の数字はあまり意味がないし、どんどん意味がなくなっている。
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