中国当局は先週末、人民元の日次基準レートを決定する際に「反循環要素 (CCF, Counter Cyclical Factor)」を再導入すると発表した。反循環的要素、または反循環因子の中身は2017年の人民元の上昇が始まった頃の記事に詳しい。要するに「人民元が急落するのは非理性的な動きなので是正する」ということだ。2017年5月にこれが始まり、図が示すようにその後は人民元高・ドル安トレンドが始まった。2018年になって人民元高ゾーンに戻ってくると、中国当局は1/9に「反循環要素の撤廃」を宣言した。2017/5から介入強化→人民元高→2018/1に介入取りやめ→人民元安、を経て8/24から再び介入強化が始まるというわけだ。
とはいえ、中国政府が外貨準備に手を付けないと決め込んだ以上、基準レートだけ操作もファンダメンタルズのサポート要因がないとワークしにくい。今回の人民元急落の根拠となった米中金利差はというと、確かに中国国債金利は8月になってやや上昇している。7月に一部の市場参加者の間でQEへの憶測をかき立て、また人民元下落の原因を作ったMLFによる資金供給は、当局としてもやりすぎ感があったのか、8月は続いていない。このQEをやや辛口に解説した「理財商品が空けた穴をQEで水没させようとする中国」では
「金融緩和そのものについては下の関連記事で既に十分に取り上げた。なぜアベノミクスと違っていまいち効きが良くないのかというと、一つは上で述べたように商業銀行の資本に頼ったものであるから。もう一つの原因は限界が見えていることだ。中国当局は米中金利差に由来する人民元の下落を放置しているように見えるが、限度がある。例えば3ヶ月や1年金利で米中が逆転したらさすがに収拾が付かなくなる可能性がある。そう考えると短期金利の低下余地もせいぜい100bpというところだろうか。とはいえ、理財商品の取り締まりからクレジットクランチが起きる可能性は低下したと考えて良いはずだ。」
としていた。米中金利が逆転する前にQE第二弾、第三弾は躊躇されたわけだ。とはいえ、クレジットクランチの可能性が低下したというのは変わらないだろう。
ファンダメンタルズ的にもCPIはやや上昇しており、(サプライサイドで供給力を削ったおかげで)PPIも高止まりしているため、投資家も無原則に債券を買っていくという雰囲気になっていないようだ。一方「金融政策変更に際して新興国に配慮しない」と恐れられていたFedもジャクソンホールで逡巡を見せ始めている。以上をまとめると、人民元がこのまま7.0を突き抜けて更に下落する蓋然性は急速に低くなっている。新興国市場のアンカーは再び降ろされたと考えて良いだろう。
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