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 Wechat payやAlipayといった中国発キャッシュレス決済サービスが街中で急速に広がっている。特に10月の国慶節に合わせた始動を目標に、訪日中国人用に導入した企業は飲食店からホテルまで多いだろう。ところが、これらのオンライン決済サービス(フィンテック)の勃興を支えてきた「プリペイドを集めてユーザーに金利を払わず、一方で銀行預金して金利差を頂く」ビジネスモデルが中国政府によって塞がれつつある。

プリペイド金利収入という濡れ手に粟

 本ブログでは以前「銀行業に寄生する世界最大のフィンテックMMF」記事で、アリババの決済サービスAlipayの預け金運用のために作られた「余額宝(Yu'​e Bao)」が世界最大のMMFに発展した背景を紹介した。これ以外に、決済用に取ってあるなどのケースで、ユーザーによって運用されていないAlipayなどのプリペイド資金(滞留資金)も当然存在する。これらのプリペイド資金(日経の記事によると5000億元(約8兆3000億円強)規模にのぼる)はユーザーに対して利息を払わないので、集めた企業は銀行預金して金利を得ることにより年換算で1000億円超の金利収入を得ていたとのことだ。この収入がないとオンライン決済サービスは成り立たない。同じ現象はデポジットを集めて金利収入を得ようとしてきたシェアバイクビジネスにも見られる。

粟の没収

 ところが今年7月までに中国人民銀行は、システミックリスクの防止とマネーロンダリング対策のためと称し、2019年1月までにデポジットの100%を中央銀行の指定口座に預託するよう命令した。現在の保全比率は2月から4月にかけて元々の20%から50%まで引き上げられたが、これを更に毎月引き上げていき、2019年1月14日に100%に着地させる。これにより、プリペイド資金からの金利収入は中国人民銀行に収奪される。年1000億円を超えるフィンテック業界からの統合政府による増税である。システミックリスクの防止はともかく、自宅から度々人民元紙幣の山が発見される中国においてオンライン決済はマネーロンダリングをしづらくしているはずだ。「指導部が進める過剰債務の圧縮(デレバレッジ)との関係を指摘する声もある。スマホ決済の滞留資金が銀行にとって新たな資金調達手段にもなっている」のもおかしな話である。ユーザーが直接銀行に預けるスタイルに戻ってもリスクマネーの総量は変わらないだからだ。しかし、2000年前に鉄と塩が中国政府の専売制にされて以来、政府による民業圧迫に理由はいらない。

フィンテックと銀行

 先月勇退を発表したアリババ会長の馬雲(ジャック・マー)は2008年にオンライン決済について、「もし銀行が変わらないなら我々が銀行を変えてやる」と喝破したという。この思想は鑑真の船旅よりも長い10年の時差を経て本邦に伝来し、フィンテックによって銀行や銀行員が取って代わられるという風潮を作った(本当の邦銀銀行員の大量減のきっかけは日銀のマイナス金利政策である)。ところが、当のフィンテックは銀行が提供する窓口での本人認証(銀行口座がない人がいきなりキャッシュレス決済口座を開くことはできない)と決済システムに依存し、銀行のためにお金にならないリテール顧客を効果的に捌きつつ銀行から金利収入を得る(運用先の目利きも銀行に丸投げ)、と銀行と共依存してきた。そして今、その共依存も規制によって破壊されつつある。

ナローバンク

 集めたプリペイド資金を全額、金利をもらえない中央銀行預託に差し出すということは、オンライン決済サービス業者はフィンテック風雲児から一気にナローバンクにされてしまうことを意味する。ナローバンク論とは金融機関の預金・決済部門をリスクを取る貸付・投資部門から分離すべきとの主張であり、前者をナローバンクと言う。預金を集めては利回りの低い安全資産で運用するだけの銀行ということだ。オペレーションコストを下げていけば塩っぱい利益が出る。1ミクロンでも起業家精神が残っている人間なら死んでもやりたくないビジネスだ。今後、中国系オンライン決済サービスはプリペイド資金金利という下駄を剥がされ、グループ他部門とのシナジーのための投資が伸びない限り、発展のスピードを緩める可能性が高い。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。