VIX
 2月のVIXショックの時も「VIX上昇→株の急落」の一連の流れについて、プログラムやルールに従って機械的に売っていくリスクパリティファンドが犯人とされた。10月の米株急落においても、同じような流れになっている。2月の時は残高が16〜19兆円とされていたが、今回東洋経済によると「リスクパリティ・ファンドやボラティリティ・ターゲティング・ファンドを含め、市場リスクに対応して動く戦略に基づいて運用されている資産は約1兆5000億ドルに上る」と犯人の大きさは数倍に膨れてしまった。

 リスクパリティファンドとは様々な資産、例えば株、債券、コモディティ、クレジットなどを、グループごとのリスク(ボラティリティ)が一定になるように配置するファンドである。各資産グループについて「ボラティリティが上がったらエクスポージャーを機械的に減らす」が基本動作となる。なお株の世界でやたらと恐れられているが、そもそもリスクパリティファンドでは株式よりもボラティリティの低い債券・クレジットのウェイトの方が遥かに大きい。
 

リスクパリティファンドの挙動

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HRA
AQRIX
 「犯人」リスクパリティファンドの運用状況に手っ取り早くアクセスできそうな資料として、公表されている指数とETFがある。米株が過去最高値を更新した8月、9月においても、「株、金利、コモディティ、クレジット」の四資産のボラティリティを計算して月次でリバランスを行うとするリスクパリティ指数(Salient Risk Parity Index)は低迷している。2017年の綺麗に低ボラ株高には乗れたが、2月のVIXショックを全く回避できていない上に、クラッシュした後は株を手放してしまったのかリターンが不調だ。Horizonが提供するリスクパリティETF(HRA.TO)に至っては9月に入ってから(株が過去最高値であることを考えると恐らく保有債券の値下がりにより)急落し、しかも10月の株のクラッシュで更にやられている。AQRが提供するAQRIXはそれよりだいぶましだが、やはり9月はマイナスであった。何も考えずに米株だけを保有し続けた方がよかった。

 これを見ると、典型的なリスクパリティファンドはまず債券ボラティリティの上昇と債券の価格下落で大きく損失を出してから、9月末のリスクレビューを経て全ポジションを縮小に行っているように見える。それが米株急落の引き金を引いた可能性が高そうだ。「変動を見て俊敏にポジションを調整する」などと書かれているが、リスクパリティファンドはそこまで頻繁に毎日ボラティリティをチェックしてリバランス(ポジション見直し)を行うわけではなく、たとえばSalientインデックスは月次見直しである。2018年10月も2月も、直前の月で債券が大きく下落したのが共通点となる。今年に入って2回もこのルートを辿ったことから、今後は金利の急激な上昇は以前よりも株に悪影響を与えやすくなるだろう。2016年11月のトランプ当選ショックで米国債が急落(金利が急上昇)した時になぜリスクパリティファンドが暴れなかったかはよくわからない。株高債券安でうまく互いの変動を打ち消せたのだろうか。

現状

 JPモルガン証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは「米市場ではリスク度合いの変化に応じて資産配分を変えるリスク・パリティ戦略などを用いるクオンツ系ファンドによる米国株の買い持ちが1月に近い高水準となった」と10/2のレポートで述べている。確かに米株が9月に天井を付けた時、VIXは11台とVIXショック以来の低さにあった。とはいえ、リスクパリティETFの10月のやられが限定的であることを考えると、10月に入ってからの株ポジション配分は大きくないように思える。

 債券と株、コモディティを同時に買っていくリスクパリティ戦略を「ただのQEトレードでしかない」とする向きもある。債券の買い +株の順張り、と分解することもできるだろう。金融環境が緩和的で債券も株も安定的にリターンを生み、株が下がれば債券がそのクッションになる時代に限ってはよくワークしただろう。しかしFedの金融引締めと共に逃げ場がある時代は終わりつつある。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。