荒れる上海株相場に隠れて中国の減税が進みつつある。個人所得税と付加価値税(消費税に相当)、法人税の引下げがそれぞれ予定されている。
10月1日から所得税の課税最低限は今までの月収3500元から月収5000元に引き上げられ、月収5000元以下の市民は所得税が免除される。月収5000元と言えば年収100万円であり、年収103万円以下が所得税免除される日本とほぼ並んだ。日本で無税となる所得の層は中国に住んでいたとしても無税となるわけだ。その上で10/20に中国財政部は2019年1月から新設される6項目の所得控除案を発表し、パブリックコメントを募集している。
大盤振る舞いな控除
6項目の控除は、子供の教育(月1000元)、納税人本人の継続教育(年400元)、高額医療費(年間15000元を超える部分、上限60000元)、住宅ローン利息(月1000元)、住宅賃料(都市により月800〜1200元程度)、老人親族扶養(月2000元)である。子供の教育には幼稚園から博士課程まで含まれる。重病にかからず、また住宅ローン控除と賃料控除は片方しか使えないとして、子供、老人が揃っているサラリーマンなら月4400元程度の控除枠ができる。先ほどの所得税下限5000元と合わせれば、理論上月収9400元までは無税となるので、月収1万元(年収200万円弱)のサラリーマンはほぼ所得税を免除される。月収2万元(年収400万円弱)のサラリーマンが払う所得税は10/1の減税前は毎月3120元、10/1以降は1590元、さらに2019年1月からの控除が始まれば830元となる。実効税率は4.2%程度となる。これは年収400万円という年収水準が相対的に高所得者からしがない庶民扱いになったことをも意味する。なお日本では完全な対比は難しいが、所得税と住民税を合わせて年収200万円なら1%、400万円なら7%程度となるようだ。
日経記事は控除導入を課税最低限引上げの付録のように書いているが、3500元→5000元の変化よりも控除フル活用による5000元→9400元の変化の方が遥かに大きい。最低所得税水準の引き上げによる減税額は年間3200億元(約5兆円)と試算されているようだが、9月の小売売上高は3兆2000億元だったので、減税分は年間の小売売上高の0.8%程度となる。うち半分が消費に回れば小売売上高を0.4%押し上げることができるだろう。控除導入は更なる押し上げ効果をもたらすかもしれない。
減速する小売
所得税減税を打ち出した背景は明らかに消費の減速である。まだ9%成長とはいえ、小売売上高の伸びは減速しつつある。人民の家計は明らかに不動産の高騰に圧迫されている。もっとも消費、ないしは内需はそれでも過剰ではないかと、爆買いを目撃した我々からは見えるだろう。国際競争力以上にバラマキと消費が繰り返されるのはしがない新興国の特徴だ。国際競争力と外貨準備を失ったら日本から買った高級便座くらいしか残らない可能性がある。
中国の緊縮財政
記者の意図とは異なる引用となるが、「減税と支出増、赤字削減は同時実現という中国の目標は達成不可能」というBloomberg記事によると、ここ数年の公式GDPの伸びよりも中国政府が徴収した税収の伸びの方が高い。もちろん毎年捕捉度が高まっているというのもあるが基本的に緊縮的であり、減税余力を蓄えている。
米国に続いても中国も減税に動いている。全世界で金融緩和ラッシュが一巡し、財政拡張ラッシュないしは減税競争が行われている中であえて増税する国もあるようだが、きっと気のせいだろう。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。