高止まりする民営企業の融資コストを引き下げるために、11/7に中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席は「一二五」目標と呼ばれる、「新規融資の中で民間企業向け貸出は大型銀行は1/3以上、中小型銀行は2/3以上、そして3年後には銀行業の新規企業融資総額の中で民間企業向けが5割以上を示すことを目指す」という民間企業への貸出数値目標を宣言した。国有企業への貸出を増やす時はその分民間企業への貸出も増やせということである。
数値目標から嫌々行われる貸出は儲かるわけがないので、これを受けて不良債権拡大懸念で中国銀行株は売られ、上海株指数も下落した。結局当局は今週になって「これは個別の銀行に対して数値目標を設けるものではない」「審査せずに貸出をしろという主旨ではない」と火消しを迫られた。
デレバレッジで民間企業がもろに被弾したのが明らかになった夏以降は、金融政策が緩和的に転換し流動性提供が行われて来た。1年物AA-格ハイイールド債利回り(白線)は夏に一回吹き上がった後に落ち着きを取り戻しているが、秋になっても株式担保融資が炸裂したりと、根本的な改善は見られていない。
図は総収益に占める各種コストの推移。興業研究による見にくいチャートだが、左・中・右の順に上流、中流、下流に分かれており、更に左から2015から2018年の各年度、更にその中で左が国営企業、右が民間企業である。棒グラフの中で薄いブルーが利息が占める割合であり、特に中流民間企業で2018年がブローアップしている。下流民間企業の利息負担も増えており、それに加えて人件費(濃いブルー)の高騰も効いている。価格交渉力がある上流民間企業や国有企業には目立った変化が見られなかった。
もちろん民間企業の資金調達が厳しいのは今に始まった事ではない。銀行のバランスシートが限られている中に「絶対に潰れない国有企業」が大量に放り込まれたら当然クラウディング・アウトが起きる。中国の銀行貸出の6割(図の黄土色)、社債発行の8割を国有企業が占有しており、デレバレッジ騒ぎによってこのシェアは更に拡大しつつある。
そもそも、国有企業の過大な負債がデレバレッジ運動の根拠だったはずなのに、元より負債を膨らませる機会もなかった民間企業の方がダメージが大きかった。図は国有企業(赤)と民間企業(グレー)利益率。「中国政府のデレバレッジが三歩進んで二歩下がる」で示したように、元より負債が重い国有インフラ系企業ほどデレバレッジが進んでいない。どんなに金融環境を引き締められても優先的に調達できるからだ。
China Says Lending Targets Shouldn't Override Due Diligence - Bloomberg
縮みゆく中国の民間経済 習近平の国有企業重視に経済悪化が追い打ち -ロイター
中国政府のデレバレッジ運動が三歩進んで二歩下がる
そもそもなぜ株式担保が流行ったか
中国の窓口指導QEの効き方は極めて東洋的
理財商品が空けた穴をQEで水没させようとする中国
野村総研が中国の流動性回復を解説する
中国のクレジット環境が早速緩和的に
数値目標から嫌々行われる貸出は儲かるわけがないので、これを受けて不良債権拡大懸念で中国銀行株は売られ、上海株指数も下落した。結局当局は今週になって「これは個別の銀行に対して数値目標を設けるものではない」「審査せずに貸出をしろという主旨ではない」と火消しを迫られた。
民間企業の資金調達の厳しさ
中国の民営企業の資金調達環境は2018年に空前の厳しさとなった。元より株式指数の買支えのためにPOやIPOは制限され、購入した投資家の売却も厳しく制限されたので株式市場からの調達はほぼ閉ざされている。理財商品を通した調達は取り締まられ、社債発行はデフォルトラッシュに巻き込まれ、挙句の果てに株式担保融資も株式の下落で大爆発を起こした。今年に入ってから株式が国有企業の手に渡った民間企業は少なくとも40社あったそうだ。デレバレッジで民間企業がもろに被弾したのが明らかになった夏以降は、金融政策が緩和的に転換し流動性提供が行われて来た。1年物AA-格ハイイールド債利回り(白線)は夏に一回吹き上がった後に落ち着きを取り戻しているが、秋になっても株式担保融資が炸裂したりと、根本的な改善は見られていない。
借入金利の高騰が民間企業のマージンを圧迫
図は総収益に占める各種コストの推移。興業研究による見にくいチャートだが、左・中・右の順に上流、中流、下流に分かれており、更に左から2015から2018年の各年度、更にその中で左が国営企業、右が民間企業である。棒グラフの中で薄いブルーが利息が占める割合であり、特に中流民間企業で2018年がブローアップしている。下流民間企業の利息負担も増えており、それに加えて人件費(濃いブルー)の高騰も効いている。価格交渉力がある上流民間企業や国有企業には目立った変化が見られなかった。
拡大する国営企業との資金調達格差
もちろん民間企業の資金調達が厳しいのは今に始まった事ではない。銀行のバランスシートが限られている中に「絶対に潰れない国有企業」が大量に放り込まれたら当然クラウディング・アウトが起きる。中国の銀行貸出の6割(図の黄土色)、社債発行の8割を国有企業が占有しており、デレバレッジ騒ぎによってこのシェアは更に拡大しつつある。
そもそも、国有企業の過大な負債がデレバレッジ運動の根拠だったはずなのに、元より負債を膨らませる機会もなかった民間企業の方がダメージが大きかった。図は国有企業(赤)と民間企業(グレー)利益率。「中国政府のデレバレッジが三歩進んで二歩下がる」で示したように、元より負債が重い国有インフラ系企業ほどデレバレッジが進んでいない。どんなに金融環境を引き締められても優先的に調達できるからだ。
火中の栗を拾う側
民間企業の資金調達を助ける必要性はわかったとして、夏の効かなかった窓口指導QEの時のように、銀行が素直に火中の栗を拾いに行ってくれるかは疑問が残る。極論すると国有企業への新規貸出を諦めても、それに比例する民間企業へのエクスポージャー増加を避ける可能性もある。背景としては減点法なのでクレジットリスクを取りたくない銀行員の本能がある。また貸出金利は規制で上げられないし、むしろ数値目標と共に低下圧力がかかっているので、派手なエクスポージャーを取れば取るほど銀行資産の収益性は悪化する。この辺りの苦悩は邦銀と同じである。一応、預金金利を下げられない邦銀と違って調達金利の引き下げという恩恵は期待できるようだが。曲がり角
そしてそもそも、無理やりな貸出で成長減速をブーストすることができるか、という問題が残る。できなければ結局市場が懸念するように、不良債権の山を築いて被害を拡大させることになる。金融政策が「馬を水辺まで連れて行くことはできるが、馬に水を飲ませることはできない」という問題提起である。これは今の不況が当局の引締めのせいなのか、それともそもそもの成長力が衰えたのかによって変わってくる。足元はデレバレッジで馬をトラックに乗せて全速力で砂漠へ運んでいる状態なので、まだ前者の可能性が高い。しかし、これ以上デレバレッジ騒ぎが続く、または貿易戦争が続くと後者の可能性が急速に増してくるだろう。関連記事
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