デレバレッジ運動が中国経済、ことに民間経済に与えた破壊力の出所は金融の「質的引締め」、つまりクレジットリスクを取れる資金の萎縮であり、これを上図の社会融資総額(Total Social Financing)でモニターすることができる。社会融資総額及びその内訳はYardeni Researchが毎週まとめている。毎年1月は増えがちという季節性があるが、これは銀行が優良顧客と市場シェアを獲得するために融資のスタートダッシュ(早投放・早収益、開門紅)を追求する傾向があるためである。2018年はその開門紅の1月を含めて社会融資総額の増分が2017年対比で縮小・停滞した。
量的緩和(QE)の方はせいぜい為替と不動産に効くかどうかなので、日本と違って当局が通貨安を避けようとしており、また見かけの金利が低下しても住宅ローンと住宅購入を厳しく制限しているため全く意味がない。2018年春に中国経済がクラッシュを始めて以来、前政権へのメンツもあってデレバレッジ運動を取り下げないまま、当局は預金準備率の切下げや資金供給(MLFなど)の増加だけを行い、また窓口指導などで銀行に民間銀行への融資を強制する(窓口指導QE)というチグハグな金融政策を続けたが、結局2018年中にわたって大した効果を上げることはできなかった。
一方、2019年1月の社会融資総額の増加幅は過去最大の4.6兆元となった。中ではシャドーバンクに分類される短期の銀行引受手形(Bankers Acceptances)による0.4兆元程度のブーストが指摘されており、この部分は2018年には全く増えなかった短期の資金供与であるとして割り引いて見るべきだという議論もあったが、大半はやはり過去最高の伸び(3.6兆元)を見せた銀行貸出である。季節性のない社債調達も堅調であり、2016、2017年の水準を超えていく勢いを見せている。2018年夏にはデフォルトラッシュにより社債調達が冷え込んだが、足元はデフォルトが続く中でもアニマルスピリッツが保たれているのか、社債調達は増加している。手形以外のシャドーバンク調達手段(信託貸出、委託貸出)と株式調達は低迷したままである。
こちらは中国のシンクタンク「混沌天成研究院」がWINDのデータからまとめた社会融資総量図表。左図は社会融資総量の内訳。ほとんど新規融資(左1)、銀行引受手形(左5)、社債(左6)の三つで構成され、その他の有象無象は一掃されていることが分かる。2018年年初は新規融資以外が全て焼け野原だった。予算が通る前の1月から発行が許可された地方政府専項債(右1)はまだ盛り上がっていない。右図の黄色い線は社会融資総量(新規増加ではなく既存額)の伸び率であり、2017年夏から一貫して下落しているが、2019年1月に反発を見せた。黒線はその中の人民元建て融資の伸び率であり、こちらは横ばいから増加に転じている(2018年の黒線と黄色い線の格差は社債など他の調達手段の受難を表している)。
2018年の景気後退はデレバレッジ運動が招いたものであったとすれば、2019年1月の社会融資総量の再加速は景気回復に繋がるものと希望を持てる。足元の景況感の暗さを吹き飛ばす、極端なまでのグッドニュースである。景況感の悪化がいつ止まるかというと「今でしょ」である。もちろん季節性が大きく出る単月のデータを過度に重視するのは危険だが、幸先の良いことであることは間違いない。
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中国の1月新規人民元建て融資は過去最高の3.23兆元、予想上回る -ロイター・キャピタル・エコノミクスの中国担当シニアエコノミスト、ジュリアン・エバンス・プリチャード氏は「単月の数字を過度に重視するつもりはないが、金融緩和に対応して信用の伸びが底を打ち始めた可能性がる」と指摘。「融資の回復が今後数カ月持続すれば、今年下半期の(中国経済の)成長安定という我々の予測と一致するだろう」とし、新規の融資が実際の事業活動につながるまで通常6─9カ月かかるとの見方を示した。
・OCBC銀行(シンガポール)の中国担当エコノミスト、トミー・シェ氏は「1月の信用統計は非常に明るい内容だった。金融緩和、積極財政、行政指導などあらゆる緩和措置が効果を発揮しつつある」と述べた。
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理財商品が空けた穴をQEで水没させようとする中国
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