S&P 500が急な角度を付けて反騰しており、もう少しでヘッドアンドショルダー右肩の2817に届こうとしている。1月末の記事では「日足雲の2600台後半〜2700がレジスタンスで、代わりにネックラインとヒゲが重なる2600はサポートとなるか。2700より上は右肩の2817が最終関門となるのであまり上に飛ぶ展開はイメージしづらい。あるとしてももう少し停滞してショートを集めた後ではないか。一方再び2600を割れたらまた脆くなりそうだ。」としていたが、結局2600を割らないまま2700台もあっさり駆け上がってきた。停滞もなかった。バルチック海運指数が示唆した大暴落も杞憂に終わった。
常軌を逸したS&P 500の急上昇は、二人の重要人物を人質に取るのに成功したのが背景である。一人はFedのパウエル議長である。Fedが利上げをチキってしまったため、米国をはじめとする全世界で金融緩和の波が全てを洗い流している。普通ならばここまで株が上がれば、またよりプロフェッショナルに言えばシカゴ連銀のFinancial Condition Indexが利上げを休止した2016年の水準から再び遠ざかったのを見て、再び無慈悲な引締めに転じても良いと思えるものの、Fedは自分達がハト化したからこそ株が戻ってきたのをよく承知しているはずだ。
もう一人の人質はトランプ大統領である。パウエル議長が既に折れてしまった以上、株が再び下がり出したらFedを攻撃することもできなくなってしまう。大統領が国内の抵抗勢力の抵抗を排して中国側と粘り強く交渉しているのはそういった背景もあるだろう。しばらく前までは米国内の強硬派による大統領のディールの妨害が目立ち、「どうせトランプは株価が大事だからどこかで妥協するでしょ」などと言おうものなら説教されたところだが、結局大統領は株価のために働かざるを得ないようだ。
ネットに転がっていたGSのレポートは右図でWW2以降の11回のS&P 500のベアマーケット入り後のパフォーマンスの平均をリセッション入りした場合・リセッション入りしなかった場合に分けて示している。そして左図が示すようにリセッション入りする可能性は高くない。問題はたとえリセッション入りしないにしてもこの回復は前例対比でとても急な方に入っているということだ。
テクニカルにはそれでも右肩の2817レジスタンスは健在であり、まだその水準が分水嶺となる。ここがブレイクされればテクニカル的には過去最高値更新も視野に入って来る。確かにもう一回クラッシュするための材料は探しづらいものの、見てきた下値と比べるとあまりにもオッズが悪くなっておりチキンレースの範疇に入っている。米景気が失速直前なのは貿易戦争と中国のデレバレッジ運動のせいであり、その二つが解決されたならば足元の景気の悪さはそのうち改善する、その上で人質を取られたFedの利上げ休止というポジティブ要因が加わっている、と言われればEPS↓、PER↑の展開も納得できなくもないが、去年年末の落ちたナイフの手掴みに比べればエキサイティングさに欠けるのは間違いない。今から誰かに鼻息荒く買い煽られたら「年末や1月は何をしていたのか」と声をかけてあげよう。
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