
5%超の日次上昇で話題を呼んだ上海総合指数は連日の上昇を経て、今度は1日で4.4%急落した。本ブログは1月から上海株の下落トレンド脱出を宣言し、2/16の記事では上海株バブルのきっかけにもなった社会融資総額の急増を「足元の景況感の暗さを吹き飛ばす、極端なまでのグッドニュース」と表現してきた。一方で上海株が急騰を始めると2/28の記事で「中国当局がバブルを許容するとは考えがたい」、更に3/3の記事で「A株はH株対比で急速に割高化している」「前回の記事の繰り返しとなるが、壮大なバブルになりそうなら中国政府にはいくらでも潰す手段がある」と今更になって高値を追いかけるのに水を差してきた。
本日の急落のきっかけになったのは、上海株バブルの中で5日連続ストップ高を演じた中国人民保険(PICC)のA株を中信(CITIC)証券が珍しくレポートで売り推奨したことである。A株のみ連日急騰していたPICCは上海上場のA株と香港上場のH株のバリュエーション格差が大きい銘柄として注目されており、3/6時点でA株株価に基づくとPBR 3.1倍、PER 32.3倍に対してH株株価に基づくとPBR 0.86倍、PER 9.1倍と、上海上場A株の方が3倍も割高だった。この状況に対して中信証券のレポートは向こう1年間でA株の53.9%の下落を見込んだ。それを受けて当然PICCのA株はストップ安まで売り込まれた。更にそれをみて割高なA株で構成された上海株指数そのものも崩れた。上海株まわりは何事も極端である。
H株対比の割高さという旧い話題

レポートの根拠となった「H株対比のA株の割高さ」は本ブログが再三取り上げた事象である。図が示すように上海・香港の双方で上場している企業群のA株は平均してH株より24%高い。上海株バブルによりこのプレミアムは17%から25%に拡大し、本日24%まで調整した。教科書的には同じ企業のA株とH株のバリュエーション乖離は明らかなフリーランチである。しかし、片方が割高でもう片方が割安と指摘するだけなら小学生でもできる。以前は市場の分断のせいにできたが、本土の投資家も香港株に投資できるようになって久しい今でもA株のみのバブルが起きるというのが中国株の相場であった。そして中信証券のレポートはPICCのA株に売り推奨を付けると共に割安なH株の購入を推奨しているが、市場参加者は「A株の割高さ」にのみ反応し、肝心のH株はA株の下落を見て更に売られるのも中国株クオリティである(アキレスの上海株現象)。
誰にでも読める裏
証券会社の売り推奨のレポートが話題を呼ぶのは珍しいことではないが、せっかく盛り上がった上海株に正面から冷水をぶっ掛けたこのレポートを発表できたこと自体が象徴的である。チャイナショック直後に当局が株価を持ち上げようと「悪意ある空売り勢」という見えない敵と戦っていた時期であれば、このアナリストは「中国株を売り崩したい海外勢力と結託して風説を流布して相場操縦を試みた」と当局に連行されていたに違いない。いやその前に会社のコンプライアンスあたりが公表を止めるだろう。このレポートが陽の目を見ることができたこと自体から、中国政府の今回の上海株バブルへのスタンスを窺い見ることができるだろう。Bloombergの記事でも西蔵隆源投資のファンドマネジャー、楊巍氏は「このような売り判断は当局の承認を受けたに違いない」と指摘。「中国株式市場は過熱気味で、投機も目立つ。当局は熱狂型の強気相場ではなく、緩やかな強気相場としたい考えだ」とコメントした。
と同じ読みを取り上げている。本ブログは兼ねてから「壮大なバブルになりそうなら中国政府にはいくらでも潰す手段がある。例の売却規制を緩めるだけで無限に近い売り玉が降ってくるだろう」としていたが、売却規制を緩めるまでもなくバブルに爆弾を落とすことができたわけだ。
ここからだが、テクニカルには上海株指数は週足で上ヒゲ陰線を作ってしまったためしばらく上値を追いかけづらくなる。もっともファンダメンタルズの改善への期待は根強いし、インデクサーの資金流入は目を瞑ったものなのでしばらく上海株の需給悪化もないだろう。乱高下はしばらく止まなそうに見えるので、高値を掴まないよう慎重に押し目買いというところか。上海株を見て動いているであろう日米株も同じである。
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