
1月に急伸を見せて話題になった中国の社会融資総額(Total Social Financing)が2月になって早速息切れしている。前月の4.6兆元から7030億元(予想1.3兆元)への急落である。旧正月の季節性もあるものの、チャートを見ると例年の2月よりも増加分が少ない。早速風向きが変わったのか。
ブレイクダウン

真水の銀行貸出は例年の2月並み。「季節性を考えて1月との合計値を取るとやはり前年比大幅増」とする意見もある。TSF全体についてもそれは言えるだろう。

TSFが激減した一つの犯人は銀行手形融資の急減である。1月時点でも短期の手形買入れによる水増しが指摘されていた。さらに2/26の記事で取り上げたように、特に資金を必要としていない企業が手形融資を使ってキャリー裁定取引に手を出したことを、デレバレッジ運動の否定にあたる金融緩和に内心不満な李克強首相が針小棒大に取り上げて批判したことで手形融資が萎縮したと思われる。
シャドーバンクの復活

ところで、今まで蛇蠍のごとく嫌われていたシャドーバンク(委託融資、信託融資)は2018年の大幅減から復活の兆しを見せている。それを追認するように、「不動産関係以外のシャドーバンク復活を許容」とする当局の発言が相次いでいる。3/9に「シャドーバンクも良いものと悪いものに分けて考えるべきだ。実体経済にとって良いシャドーバンクは存続が許される」と銀保監会副主席・王兆星(Wang Zhaoxing)が取材で述べている。弁証法の亜流ともいえる、「物事を細分化していくと悪い面も良い面もある」という論法は当局が軌道修正を図る時、自己矛盾にぶち当たった時によく使うものだ。銀行貸出の伸びだけで十分に民間セクターへのクレジット供給ができないなら、一部のシャドーバンク復活も辞さないと言うわけだ。節操も何もあったものではないが、とにかく貿易戦争を待つまでもなく中国経済をボロボロにしたデレバレッジ運動が完全に破綻を宣言された瞬間である。
銀行が民間企業に貸したがらないのはデフォルトリスクへのゼロ・トレランスゆえであり、厳しい規制と減点法の考課体制ゆえである。しかし、それでいて理財商品を発行して危ない企業に貸出し、裏で暗黙の保証を与えるようなアニマルスピリットが残っているのであれば、当局はそれをも藁として掴みたいわけだ。銀行業界への規制が経済に有害であり、減点法に生きてきた銀行員が一般人の平均以下の審査能力しかないなら、シャドーバンクの存在は正当化される。人民が自分で企業やプロジェクトの説明を受けてクレジットリスクを取った方が自分の資産運用のためにもなるし、社会のためにもなるというわけだ。中国財政科学研究院(シンクタンク)院長・劉尚希も「もし正規の金融機関や金融体制が社会の資金需要を十分に満足させられるものであったなら、シャドーバンクがここまで発展できたはずがない」と喝破する。
いずれにしても2月単月の塩っぱい数字も、1月の伸びを完全に否定するものではないと言えそうだ。引続き中国のクレジット環境の緩和は続くと思われる。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。