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 今夜結果が発表されるFOMCで、2017年9月以来の据置きが予想されている。2017年12月以来は四半期に1回の利上げが続いたし、2017年9月も利上げがなかった代わりにバランスシート縮小開始が決定され、何らかの引締め的政策変更がないとすれば2016年9月以来となる。2018年12月の利上げが米株のクラッシュを招き(正確には米株のクラッシュを助けなかった)、それを受けてパウエル議長が年明け早々に「Can be patient」と利上げ予想をトークダウンしにかかったため、Fedのハト化を金利、株式の両市場共に織込み始めた。米株はあれから一直線に上昇した。

 一方で金利市場は次々と出て来た米国の悪い指標を受けて、2019年中の据置きを通り越して利下げを織込む水準まで突っ走っている。FF金利先物は2019年の利上げゼロ、据置き7割、利下げ3割を織込む水準までハト化を織り込んでいる。今回利上げなしは良いとして、FOMC声明文から足元の年内利下げ織込みを正当化できるような回答を出してくるだろうか。
 
dot plot Dec 2018
 前回(2018年12月)の委員達が示したドットの中間値は2019年2回利上げ、2020年1回利上げである。これが市場の利下げを正当化する形で中間値マイナス回に突っ走る可能性は極めて低いだろう。しかしドットは金科玉条でもないため、たとえば中間値1回までしかドットが下がって来なかったとしても、FF金利の方の織り込みがマイナス0.3回からプラス1回に跳ねる訳ではない。むしろ市場参加者のポジショニングによってはアキレスの亀のように、ドットがマーケットを追認するのを見たマーケットは更にその先を織り込みに行くこともあるだろう。しかし、それでもフラットと利下げの間には相当大きな隔たりがあると思われる。
ISM Manu
Core CPI PPI
 米国経済はというと、Fedが重視するコアCPIは(PPIと合わせると)低下しそうに見えなくもないが、いまだにインフレターゲットである2%以上で安定している。先行指標であるISM製造業はトランプ、ライトハイザーが主導する貿易戦争のオウンゴールで急低下している。とはいえ水準としてはまだ50台半ばであり、利上げを休止した2016年前半のように50を割り込んで赤信号が灯った訳ではない。そしてISMに限らず、米国の経済指標がことごとく悪いのも事実である。雇用は堅調だが、こちらはISMの遅行指標なので年央あたりから悪化が顕在化することは間違いないだろう。
BreakEven FRED
 では米国がこのままリセッションに突入するかというと、米株は明らかにそう見ていない。金利市場のインフレ期待を表すものとしてFedが重視する5年フォワード5年のブレークイーブンを見ると、確かに1月の株安局面では低下したが、リスクオフの緩和(株の反転)と共に再びインフレターゲットの2%を超えて来ている。これは12月にFedが利上げした局面と同水準であり、12月は利上げしたのに3月は同じデータ水準で利下げを匂わせるというのは言い訳が難しいだろう。いや12月の利上げも間違ってましたと土下座しろと言われればそれまでだが。
FCI FRED
 Fedが「インフレやインフレ期待が問題なくても利上げが(新興国経済へのインパクトなどから)金融市場にストレスを掛けている」という論理で利上げを躊躇する時に根拠にする定量指標はFCI(Financial Condition Index)である。2019年のリスクオフ(クレジットスプレッドのワイドニングなど)でFCIは確かに一度跳ね上がったが、足元では急落(急激にルーズニング)しており、2018年どころか2017年年末のバブル時よりも足元の金融環境は緩和的である。ここから更に利下げ(金融緩和)を投入する必要があるとは全く思われない。むしろ利上げの必要性を示唆するデータだが、「FedはFCIが緩んでいるのは自分達がハト化したためであり、FCIを見て利上げすると再びクラッシュしてFCIがタイトニングするのを知っている」という見方が根強い。もっとも「金利が上昇すると株がクラッシュするから金利が上昇しない」という論理で構えていた市場参加者は2017年、2018年と何度も金利上昇で焼かれて来たはずだ。

 市場の織込みとは別に銀行のストラテジストの多くは利上げサイクルが終端に近づいているとしながらも、2019年に1回のみの利上げを見込む声が多い。ただそのタイミングは6月、9月、12月とバラバラであり、また1回のみならあえてしなくても良いのではないかという声に対して説得力が強くない。なお彼らの半数ほどは昨年年末は2019年4回利上げを見込んでいたようだ。

 という訳で、ドットチャートは残り3回の利上げから残り1回、或いは綺麗に0回が中間値になるように揃えてくるか。0回で揃った場合はややハト側のサプライズとなり「アキレスのドット」が見られる可能性もある。Fedが「中国の財政拡張がこれから効くので足元の米国経済指標はすぐに持ち直すだろう」などと根拠の薄い話を持ち出すはずはないが、それでも過度なハト化は避けてくるのではないか。今のFCIや米株は明らかに「一回マーケットに負けた」パウエル議長の恐怖心を見てモラルハザードを起こしているからだ。完全に0で揃えると利上げサイクルが終わったというシグナルになり、S&P 500が2800台に載っている状態でそのシグナルを出す意味はないので、後でどうとでもごにょごにょできる2020年に1回利上げを残すのではないかと個人的には思っているが、果たして。そして満額回答が得られないようならS&P 500は調整、米ドルと米短期金利も上方向に調整しやすいと個人的に見ている。利上げサイクル終了を示唆するほどハト化するならポリシーフェイルに繋がる可能性がある。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。