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 特異的に長いGW休みを控えて、外貨買いフローを作ってくれる日本人が長い休みに入ることによって仕掛け的な円高の可能性が取り沙汰されている。特に今年のお正月休みのAUDJPY主導のフラッシュクラッシュは記憶に新しいだろう。

 流動性の悪い休み中にあえてポジションを取って放置する意味は全くないし、休暇を楽しめないのも面白くないため、基本的に一切リスクを取りたくないのを前提での頭の体操だが、筆者にはやや警戒のしすぎではないかと見えてくる。

    連休中は確かに日本人の海外投資のフローは入って来ないが、それだけで「円高方向への仕掛け」を敢行する理由としては弱いではないか。クラッシュさせるにはロスカットさせられるような投機的な円売りポジションが積み上がっている必要があるが、正月で既にフラッシュクラッシュを経験したにもかかわらず、またここまで前もって騒がれているにもかかわらずわざわざ円キャリー(ただでさえ死語だ)ポジションを放置して旅行に行く参加者は果たしてそんなに多いだろうか。むしろ、連休を言い訳にドル円の買いを先送りにしていた投資家の実需が「GW暴落はなかった」と分かった後に炙り出される可能性の方が高いのではないかと思ってしまう。

    円については、ユーロというもう一つのファンディング通貨が出来ているため、キャリーポジションを構築するにしてもファンディング通貨は分散されてきており、昔ほどは「リスクオフ=キャリーポジションの巻戻し=円高」ではなくなっている。だからこそ2017年も2018年もドル円が10円以下の値幅に収まったのではないか。またその結果GW中の円相場も冒頭のチャートが示すように、2000年代初頭を中心に円高が多かったのに対して直近は円高と円安が半々である。なお、キャリーポジションの運用サイドについてはかつては「高金利先進国」などという括りもあったが、今はドル金利が豪州金利などよりも高くなっており、キャリー源は米ドルに一極集中している。

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    ところで、足元ではドル円をはじめとして各通貨のボラティリティが類を見ないほど低下している。米国が利上げ休止に入り、ECBもテーパリングを先送りしたことにより主要国の金融政策の不確定性は低下した。更に一部の生命保険会社が高騰するヘッジコストを回避するためにコールオプションの売りを利用したりしているのもボラティリティの抑制に繋がっている。

 Bloomberg記事によると、ドルインデックスの過去の異常なボラティリティの低下は毎回どちらかの方向への大きな変動に繋がってきた。低ボラティリティでは市場参加者の想定レンジも狭くなってポジションが大きくなりがちなので吹っ飛びやすくなるのは当たり前で、「いつかどちらかの方向に大きく」ではあまり情報としてバリューがないが、過去チャートを見る限りでは概ねドル高に繋がってきたように見える。今からサプライズドル安になるとすれば、FOMCが完全に利下げ・金融緩和方向に舵を切るケースくらいしか考えられないが(なおそのケースではそれなりのドル安方向のインパクトがあるはずだ)、景況感が最悪期を脱した今にあえてそれをやる必要性は薄いと思われる。
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    キャリー源が米ドル一択の中で、ボラティリティが低くなってくるとドルロングのキャリーが魅力的に見えてくる。日本から米債投資するにしても、どうせ動かないならキャリーを2.9%近く払ってまでして為替ヘッジをかけるのがアホらしくなってくるだろう。本邦勢はヘッジコストの安い(金利カーブがスティープである)欧州国債や北欧国債に避難してきたが、流動性や市場規模を考えると米ドル債券市場をずっと避けて通ることはできない。フルヘッジから「円高になったらオープンで購入する」というスタンスにシフトしつつあるとすれば、GW中の円高を虎視眈々と狙っているはずだ。それがなかったとなると、GW明けから目が覚めるような円安ドル高が想定されてもおかしくない。海外旅行先でクレジットカードを刷る日本人が多いのもマーフィーの法則的に円安要因である。いずれにしても、GW中に為替リスクは取りたくないが。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。