SPX REIT
 米株指数が堅調さを保っている横で米国REIT指数がグダり始めている。2018年では1月でも9月でもREIT指数が米株指数とのダイバージェンス(S&P 500が上昇している横でREITが下落)を示すと、しばらくして米株は暴落した。米REIT暴落の方が先行性のあるカナリアに見えたのである。これはどういうカラクリだろうか。
 
 本ブログでも再三触れてきたようにREITは利回り物であり、「米金利 +イールドスプレッド」で評価されることが多い。米金利が上昇すればREITの要求利回りも当然上昇し、REIT価格は下落しがちである(よほど同時にイールドスプレッドがタイトニングするような材料がない限り)。
TXN SPX REIT

 そこで米金利のチャートも並べてみると、2018年の米株の2回の暴落(2月、10月)前夜は共に米金利が急上昇した。またその2回の米金利の急上昇(1月、9月)はそれぞれ2018年で月次上昇幅が最も大きな2つの月であった米株急落前夜の米REITの下落はいわば米金利上昇の代理変数であった。昨年は「絶好景気・インフレ加速だから米債やキャリー物が売られるのは当たり前で、それよりもEPSが伸びるから株だ株」などといった鼻息荒い声も聞かれたが、米株というイカロスは米金利という大地から離れて飛び立つとそのたびに墜落するようだ。

 この現象については「REITと同じく株式にも要求利回りがある」という教科書的な説明もできるが、より直接的に米金利と米株を繋げているのは、去年正しく悪者とされてきたリスクパリティファンドではないだろうか。VIXショックと名付けられた2月はいうまでもなく、10月もリスクパリティファンドの投げが米株の急落を加速させたと言われている。VIXが上昇すると1兆5千億ドルの残高を誇るとも言われるリスクパリティファンドからの売りが出てスパイラル状に急落が加速するのはもはや常識だろう。

 そこから更に一歩考えを進めると、リスクパリティファンドは普段から債券、株式など様々なアセットクラスを同時に保有している。そこで金利高で債券部分が大きく毀損する(債券のボラティリティも上昇)と、ポートフォリオ全体を「債券及び株のボラティリティ」から守るために全てのポジション縮小を余儀なくされるのではないか。まさか債券のボラティリティが上昇したからと言って債券より更にボラティリティの高い株に避難するわけにもいかない。つまりリスクパリティファンドは2018年の2回のVIX上昇と株安を「加速させた」だけではなく、「債券の急落を株の急落に繋げてきた張本人」であった可能性すら出てくる。リスクパリティ戦略のマネージャー達は各アセットクラスのボラティリティレビューを月次で行うであろうから、米金利が「月次で大きく上昇」した次の月に株式指数が暴落するのと整合的である。

 さて話を今月に戻すと、低下してきた米金利は上昇方向に反発している(1番目の図の左から三つ目の緑枠)。それに反応した形で米国REIT(3番目の図)も売りに押されたのだろう。しかし、2018年の2回のクラッシュ前夜と比べると米金利の上昇幅はまだ小さく、リスクパリティファンドのポートフォリオを揺さぶるような急落になったかは怪しい。もちろんイースター明けから月末までに米金利が更に急騰すればリスクパリティファンドがセル・イン・メイを作ってくれそうだが、今のところはまだ要注意シナリオの一つに収まっているだけに見える。
Risk Parity Inde
 なお話題のリスクパリティ戦略だが、クオンタティブな比率変更はあれども要するに株と債券を同時に保有しているだけなので、足元のFedの利上げ停止を受けた債券高株高のトランプ高圧経済相場では絶好調である。図のS&P 500 10% Volatility Target Indexは2018年のピークを遥かに上回っている。普通に考えるとこのユーフォリア的急騰は持続可能ではないはずだが、果たしていつどのように調整されるのだろうか。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。