US 10 year 2 year
 米金利の3月の一時的な3M -10yのインバート(長短逆転)は一時大騒ぎになった。米金利カーブのインバートは2年程度のリセッションを予想するものとして有名になっており、更にリセッションまでの間のチキンレース株価上昇を示唆するものだ、というところまでが常識となっている。しかし、結局3M -10yのインバートはその後あっさり解消し、より有名な2y -10yのインバートは起きていない。2y -10yは年末の米株クラッシュ以来、10 -20bpの狭いレンジを続けている。その間、米金利の低迷を受けて米株の方はS&P 500で言うと2300台から過去最高値に近い2900手前まで上昇している。

  ここまで無視され続けたら3M -10yの短期間のインバートは無意味だったということになりそうだ。一時は悪かった景況感そのものも「1月底打ち3月回復」で論争に決着が付いている。3M -10yインバートに2y -10yインバートが続かなかったのは、引き算的には3M -2yが素早くインバートしたからであり、これは2年以内のFed利下げを織り込みに行ったからである。とても安直に解釈すると「3M -10yがインバート(=今の政策金利が高すぎる)しても、Fedが素早いハト方向に政策転換する(3M -2yがインバート)ので、リセッションを回避(2y -10yはインバートしない)できる」というメッセージになるだろう。
 
2Y 3M
 足元で2.4近辺で取引されている3M Bill及びFF金利に対して2年金利は一時の深いインバート(複数回の利下げ織り込み)から反発したものの、依然多少の利下げがプライシングされた水準で推移している。これは12月の利上げを最後にFedがしばらく利上げがないとドットチャートで示したからであり、またトランプ大統領からの圧力も考えるとしばらくの利上げ再開はまずなさそうだ、という市場参加者の観測を表している。

 今年2月に開催された「米国金融政策フォーラム」でFRBのクラリダ副議長やウィリアムズ総裁らがインフレ目標の枠組み見直しについて問題提起を行っている。 曰く、今までFedは2%を中心とするシンメトリックなインフレターゲットを設定してきたものの、実際にはインフレが2%に近付くと引締め方向に動いてきたため、現実のインフレは2%以下で推移してきた。現実のインフレが2%を下回る期間があまりにも長く続くとインフレ期待も下がってくるため、バランスを取るためにも同じ長さくらい2%を上回る期間があっても良いのではないか、つまり2%を上回っても利上げを急がなくても良いのではないか、という問題提起である(Average Inflation Target)。議論としては筋が悪くないものの、タイミングがタイミングなだけにどうしても利上げを止めろというトランプ大統領の政治的圧力を敷衍するために結論ありきで捻り出された理屈ではないかと勘繰りたくなってしまう。だが、いずれにしてもこれで利上げのハードルが相当上がったことは間違いない。非現実的になったと言っても良いだろう。
FCI
 一方で米株のバブル具合やそれを受けた一転して極端に緩和的になった金融ストレス指数(FCI)などを見ていると、正直筆者などにはここからの利下げもまずないだろうと思えてしまうのだが、それ以上に確実に利上げがないなら利下げ宝くじを買っておく方が面白いと思えるのだろう。 その人数が多ければそれなりの利下げ織り込みが持続する。
Crude Oil vs Break even
 短期金利は少しの利下げ織り込み継続で仕方ないが、これで長期金利までも永遠に動かないと慢心するのはやや危険ではないかとも思える。今のところ10年金利はバブルの長期的な影響について深く考えず、ほぼ2年金利とパラレルで動いてきた。しかし、冒頭の2y -10yのレンジが仮にブレイクされた場合はそれなりのフォロースルーが起きる可能性がある。長期金利は金融政策ではなく、長期的なインフレ期待によって動く。足元では10年金利が示唆する5yフォワード5yインフレ期待はインフレターゲットの2%を少し上回ったところで低迷しているが、本来この5yフォワード5yインフレ期待は原油相場と関連が深い。原油相場は上昇トレンドが続いており(本日トランプ大統領が日本を含む8ヶ国のイラン経済制裁の適用除外措置を撤廃し、原油高トレンドの火に油を注いでいる)、5yフォワード5yインフレ期待がどこまで原油高を無視できるかは怪しい。無視できなくなった場合、10年金利は2年金利の束縛から離れることになる。

 いずれにしても今は2y -10yスプレッドは冒頭の図が示すようにまだレンジ内に収まっているので全方位レンジを想定し続けても問題ないが、万が一にも上にブレイクした場合は長期金利のベアスティープニングがピタゴラスイッチを押してしまう可能性も想定しておくべきかもしれない。

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