本ブログは20日の記事で「ドルインデックスの過去の異常なボラティリティの低下は毎回どちらかの方向への大きな変動に繋がってきた。(中略)過去チャートを見る限りでは概ねドル高に繋がってきたように見える。今からサプライズドル安になるとすれば、FOMCが完全に利下げ・金融緩和方向に舵を切るケースくらいしか考えられないが、景況感が最悪期を脱した今にあえてそれをやる必要性は薄いと思われる」「キャリー源が米ドル一択の中で、ボラティリティが低くなってくるとドルロングのキャリーが魅力的に見えてくる」「GW明けから目が覚めるような円安ドル高が想定されてもおかしくない」とドル高を推してきたが、GW入りを前に既に目が醒めるようなドル高局面が始まってしまっている。
冒頭チャートはドルインデックス。昨年冬からアセンディングトライアングル的な一進一退が続いていたが、今まで上値を抑えていた水平レジスタンスを今週になって力強く突破している。テクニカルには保ち合いが終了してトレンドが再加速しやすいチャートとなっている。
ドルインデックスを鏡に映したようなEURUSDは、ディセンディングトライアングルを底抜けて下値を掘り続けている。
AUDUSDは中国の1月底打ち3月反発というファンダメンタルズに支えられて上昇してきたのがここ数日で台無しにされており、やはり下に抜けようとしている。豪州景気の堅調な雇用と弱いGDPの二面性論争に決着が付かないまま弱いCPIが全てを洗い流した。
ユーロや人民元などのアジア通貨からなるバスケットペッグ通貨として擬似ドルインデックスの立ち位置にあるシンガポールドルも冬からずっとサポート(USDSGDのレジスタンス)となっていた1.3620を抜け、巨大な三尊とも四尊とも言える長いリバーサルフォーメーションが完成してドル高SGD安が加速している。
前回の記事のメインテーマだったドル円だけはドル高局面にあっても上抜けの明確さにやや欠ける。米金利がパッとしないこと、日銀には緩和余地がありそうにないこと、過去最高値を更新した米株から目を背いて金利為替だけをみるとまるでリスクオフらしい雰囲気になっていることが背景にありそうだ。
このドル高が特徴的なのは、米金利の低下と並行して起きていることだ。もちろんこれは2月5日の記事で既に取り上げたように、Fedがハト化した途端にFed以外の中銀がFedより更にアグレッシブに緩和街道を突っ走って始めたからである。多少フラついたとはいえ米国とその他世界(Rest of World)の景況感格差と金利差がまだまだ大きい。よほど反米ドル感情が強い投資家でなければ、時間が経つにつれて米ドル非保有によるキャリーの見劣りが痛くなってくる。
政治的には重商主義のトランプ大統領がドル高牽制を仕掛けてくるのではないかという恐れが多くの市場参加者の心に残っていると思われるが、トランプ大統領からすれば米ドル安→輸入インフレ(特に原油)→米金利が上昇する方がより嫌なのではないか。ドル高で多少通商面で不利になっても相手国を詰めれば良い。2017年はそれなりに待たされてからトランプ新大統領による念願のドル高牽制発言があったが、我々はその残像を過大評価しているのではないか。
この「他国のハト化に支えられたドル高米債高局面」は2014年を彷彿とさせる。2014年にはECBのマイナス金利政策導入、日銀の異次元金融緩和バズーカ第二弾が相次ぎ、溢れ出た資金が米国に向かい壮大なドル高米債高を演出した(青い円)。
2014年の日欧による強制米国金融緩和の後に何が起きたかというと、米ドルに実質ペッグしていた人民元が耐えられなくなり2015年8月に切り下げを敢行してチャイナショックが炸裂した。ドル高になると外貨建て債務が重い新興国にストレスがかかることになり、中期的にはあまり嬉しい展開ではないように見える。
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