SPX
 前回のS&P 500テクニカルシリーズは2860近辺で「ヘッドアンドショルダー完成を警戒」「(大阪G20に)トランプ大統領は既に参加を表明しており、一時早速(トランプ・習会談の)環境が整ったとの観測をかき立てたが、上のリスクにより直前まで油断できない」「安心して株の上値を追いかけられるシナリオへのハードルは高い」「今もレジスタンスとなっている感がある2900を上に切ったら再び機動的に追いかける覚悟で、ファンダメンタルズの不透明さが払拭されるまで慎重に構えるべきかもしれない」としていたが、珍しくテクニカルと需給をファンダメンタルズ(貿易戦争激化)への強いコンヴィクションで無視したのが吉と出た。S&P 500はヘッドアンドショルダーを完成させ、その勢いで200SMAもブチ抜き、暴落がないままジリジリと下落している。
 
 その後のヘッドラインは米中両方とも好戦的なものが続き、挙句の果てにトランプ政権がメキシコに関税を掛けると言い出して乱闘の構図となっている。その裏で中国の製造業PMI(公式)は再び水面下に潜り始め、本ブログが2月に言い出した景況感の「1月底入れ3月反発」が3月で終わったことが徐々に市場参加者に浸透している。これは、たとえ貿易戦争関連でグッドニュースが出ても上値を追いかけるというよりはやれやれ売りに押される可能性が高いことを示唆している。テクニカルにヘッドアンドショルダーの2900がレジスタンスに転じたのがそれに対応している。

 S&P 500はかろうじて天井から7%程度調整したところだが、前々回の記事から「新高値に売りあり」などと言ってきた本ブログからするとむしろ焦れったい方であり、もう少しドカーンとクラッシュしても良いのではないかと思える。なぜクラッシュがなかったかというともちろん、天井の方でロングを積んだ参加者が少なそう、またヘッドラインが「貿易戦争再開」と万人にとって明瞭明快であり逃げ遅れた参加者が少なそうというあたりだろうか。
AQRIX
 また、ここ数回のクラッシュの犯人とされてきたリスクパリティ戦略も静かである。 リスクパリティについては「米REIT、米株、米金利、カナリア、イカロス」から「金利上昇を株クラッシュに繋げる犯人」としてきたが、足元はリスクオフと共に金利低下が観測されている。前回記事でも「国債部分が金利上昇で揺さぶられない限り、(昨年と異なり)リスクパリティファンドの順張りの売りは出にくい可能性がある」としていたが、恐らく彼らは株エクスポージャーをある程度復元したものの、リスクオフ局面における株と国債の逆相関が綺麗に保たれており、株+債券ポートフォリオのボラティリティが特に上昇しなかった(図のAQRIXで見ると5月後半はほとんどフラット)ため、特にポジションを落とす必要性に迫られなかったのではないかというのが本ブログの推測である。もちろん、結果的に打ち消しあったとしても危うい均衡であり、パーツごとで見るとVIX, TYVIXがそれぞれ高止まりしたことをもってポジションを落としてくるファンドもあるかもしれない。「米REIT、米株、米金利、カナリア、イカロス」では月次で国債が大きく下落した翌月のS&P 500が急落しやすいとしてきたが、国債が大きく上昇した翌月がどうなるかも興味深い。
 HYG
VIX
 カナリア達はというと、VIXは相変わらず茶番である。HYGは堅調でほとんどドローダウンしていない。このあたりは株より更に需給で動いているのだろう。
TNX
 一方、明らかにポジショニングが悪い米金利はしっかり急落している。ドル円もそれに連れられて円高気味となった。本ブログはGW前に「(GW中のフラッシュクラッシュ)がなかったとなると、GW明けから目が覚めるような円安ドル高が想定されてもおかしくない」としていたが、こちらは完璧に外れた。GW中は円高にならず、代わりに警戒が解かれた5月後半に円高ドル安になった。もっとも対円以外では本ブログの見立て通りドル全面高が続いている。

 さてここからどうするかというと、まずヘッドアンドショルダーなのでもしすぐに2800台中盤あたりまでの反発があったら2900を背に売っていくのが正解になりそうだが、問題は反発がなかった場合である。一応前回記事は「様子見」で終わっているためニューエントリーを考えるということになるが、これが全く分からない。新高値更新を見送った、ないしは貿易戦争再開で目を瞑って売った参加者が多いとすれば、ポジショニングは悪くない。大半の参加者がペインになるには、ここからサクッと戻るか、押し目を拾った参加者が更に音を上げるような下落のどちらかだが、前者はイメージしづらく、後者も今までの驚くほどの下値の堅さを考えるとやや時間がかかるか。何れにしても、グダグダ続きや小さなテクニカルな反発はあり得ても、腰を据えて拾い急ぐ必要はなさそうだ。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。