前回の記事ではS&P 500の新高値更新の強さを認めながらも、「静観か、次の兆候が見つかるまで2900台で短期回転」としていたが、まずは高値をグイグイと攻める展開となり、世界中の中銀ハト化を材料に先週には3000の大台載せ手前まで試した。しかし、金曜に発表された米国の雇用統計が思ったより良かったことから米金利が反発に転じ、近い将来の利下げ織込みが急速に萎んだことがリスクオフを招いてしまった。「低インフレに裏付けられているとはいえ、この債券株式の同時バブルは持続可能ではないと見るのが自然だ。S&P 500が過去最高圏で推移する中で利下げとなると前代未聞であるため、7月利下げ織込みの後退もどこかで想定できるだろう」としていた通りである、と言いたいところだが、織込み後退のきっかけは「トランプほど怖くない株高」などではなく雇用統計であった。
もっともトランプ大統領が直ちに再びFedに利下げを強要するツイートを打ち込んだことからS&P 500は反発し、金曜の日足は下ヒゲ陽線となったが、果たしてこのツイートだけで消火が済んだのだろうか。
株は「目先はとにかくこのチャートの需給の良さ(ショーターの苦しさ)が一巡しないと逆張りはやはり危険に見える」としていた通りのショートカバーで跳ねやすい地合いが続いているが、一方でハイイールド債は久方ぶりにカナリアらしい値動きとなっている。こちらはトランプの利下げ強要ツイートなどでは反発せず、金曜月曜と立て続けに売られている。「所詮(金利上昇でやられる)債券だから」という見方もできるだろうが、今の株も成長よりも利下げ期待で膨らんでいるとしたら五十歩百歩ではないか。
「債券と株式の同時安」(順相関)と聞くとまず思い付くのがやはりリスクパリティ戦略のぶん投げである。6月初旬の記事では「リスクオフ局面における株と国債の逆相関が綺麗に保たれており、株+債券ポートフォリオのボラティリティが特に上昇しなかった」、また5月の記事でも「国債部分が金利上昇で揺さぶられない限り、(昨年と異なり)リスクパリティファンドの順張りの売りは出にくい可能性がある」としており、実際6月いっぱいまでリスクパリティファンドの影など思い出したら負けな展開となっていたが、ここに至ってようやく「リスクオフ局面における株と国債の逆相関が崩れ」「国債部分が金利上昇で揺さぶられ」始めたのではなかろうか。実体経済の議論と違って金利の絶対水準は関係なく、とにかくドローダウン幅がクオンタテイティブな揺さぶりをかけるのである。もし金利上昇が今月いっぱい続いたりした日には、久々にリスクパリティファンドの出動が見られる可能性があるのではないか。前回の記事で今回の株高を「クオンタメンタルなアセットアロケーターの踏みが始まってからリスクパリティの出口までの祭り」としていたが、もう出口が近づいて来てしまったのか。
テクニカルには、まだまだ最高値更新のモメンタムが残っているように見える。トランプのツイートが終値を持ち上げたおかげでS&P 500の週足は下ヒゲ陽線となっており、それまでの天井水準にもあたる2950がサポートとなっている。ここを下にブレイクして初めて週足ベースで反転を確認でき、そこまでいけば今年初のリスクパリティショーが期待できるだろう。
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この記事は投資行動を推奨するものではありません。