Shadow bank
 貿易戦争で緊張感が続く中国で、中小銀行の事故が相次いだため銀行間流動性にやや不穏な雰囲気が流れた。今のところは当局の素早い対処療法で流動性危機の芽は押さえ込まれているが、長期的に見て中小企業への効果的なクレジット供給が続くかが怪しくなっている。

 中国のメガバンクは預貸率が低く、図体の割りには取れるクレジットリスクも小さい。国有企業などに一通り貸して余ったお金をインターバンクに流し、それを中小銀行が借りて更にリスキーな貸出し先を探すという、誰かが「車のディーラー網のように」、また「昔の日本のように」と形容していたが、そういうウォーターフォール状にクレジットが社会全体に供給されることになっている。ということは上の方で金融緩和を行ってもウォーターフォールの一番下に流れるまで時間がかかるし、そもそも一番下までコントロールできない可能性もある。その間に国有企業や大手不動産企業が横からチープクレジットを我田引水して無駄遣いやバブルを繰り返してきた。「金融市場のレバレッジが高い」のも当たり前である。PBOCから地方の民間企業にお金が行き渡るまで一体何度インターバンク取引を経なければいけないのか。
 

 このウォーターフォールを迂回して運河のようにクレジットの悪い民間企業にお金を渡していたのが、曲がりなりにもある程度の市場性を持ったシャドーバンクであった。中国当局はこのシャドーバンクを取り締まる一方で銀行にMLFやらTMLFやら様々なニンジンをぶら下げて同じ役割を果たさせようとしているが、果たしてどうなるだろうか。かつて社債市場について「たとえ大手銀行の運用担当者がリスクを取って数億円儲けてもボーナスに反映されるのは微々たる額だ。一方、万が一保有債券がデフォルトした日にはクビでは済まない。辞めることすらできずに一生追及される可能性が高い。AAを買って責任を取るくらいなら多少のスプレッドを諦めてもみんなと一緒にAAAを買う方が合理的である」 と現場の声を引用したが、融資担当者も同じではないか。現に貿易戦争を受けて「一部の銀行はもはや貿易を手掛けている企業とは取引自体したがらない」と言われている。しかもインターバンクで金融緩和を進めれば進めるほど、特段低コスト調達にもならないMLFやらTMLFやらの有り難みが減るのではないか。
ncd yield
NCD surge
china repo rates
 シャドーバンクの運河が埋められた後、地方でリスクを取ってくれる貴重な地方銀行の相次いでトラブルに見舞われており、ウォーターフォールも詰まり気味になっている。積極的なリスクテイクで「小型・微型企業サービスのロールモデル(服务小微企业标杆)」とも言われた内モンゴル自治区の包商銀行は破綻寸前で5/24に当局の公的管理下に置かれた。その際大口債権の一部が完全に保護されなかったため、中小銀行の主要なインターバンク調達手段であったNCD(Negotiable Certificates of Deposit, 譲渡性預金証書)市場の利回りは6月に一時上昇し、そこから締め出された地銀がレポ市場で借り換えを試みたことからレポ金利も連れられて上昇した。もっともその後当局の流動性供給により少なくともレポ市場は鎮火している。
Jinzhou AT1
 更に次に(同じく不景気な省である)遼寧省の錦州銀行も「法人顧客向けの融資の一部が文書で規定された目的以外に使われている兆しがある」とE&Yなど監査法人が辞任したこともあって流動性危機に陥り流通していたドル建てAT1債が急落し(株は2018年に有報を出せなくなってからずっと上場停止)、国営銀行のICBCと政府系ファンドの中国信達、中国長城の出資を受けた。上流の金融政策を緩めたところで、クレジットがこれまで以上に末端まで行き届きづらくなっていることは間違いない。
TSF All
TSF Bank loans
 グッドニュースがあるとすれば、ゴタゴタを経ても社会融資総額(TSF)がまだ失速していないところである。こちらはシャドーバンク系と社債発行が軒並み低調であり、銀行貸出だけが孤軍奮闘している。政策の鞭があるとはいえ、いつまで積極的な貸出が続くか要注意である。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。