SPX Daily
 待ちに待ったクラッシュである。前回のS&P 500テクニカル記事は、全てのテクニカルを放棄して「クラッシュが来るまで雨乞い」としていた。2975近辺から「2950を背にしたロングもリスクリワードが悪すぎ」としていたが、その後はというと3025まで上昇してからFOMCの25bp利下げと貿易戦争の再開を受けてクラッシュして2950を下にブレイクしている。雨乞いの結果としては、半月ほど旱魃が続いた後ついにザーザーと雨が降り出したと言える。本ブログの読者でクラッシュのペインサイドに立つことになった人は少数だろう。

 今回のS&P 500の調整は7月FOMC直後から始まった。パウエルFedがトランプ政権からの圧力に屈する形で25bp利下げを実現したものの、「利下げサイクル突入」は頑なに否定した。そのため株が下がったと説明されているが、では逆に利下げサイクル突入を認めたら株が上がっていたかというとそんなイメージもなく、結局株が一人調子に乗りすぎて袋小道に入り込んでいたのをパウエルのせいにしただけではないかと思われる。

 次に上海における米中間の第12回貿易会談が実質的に決裂に終わったことを受けて、8月2日にトランプ政権は中国への3000億ドル分の商品への10%の追加関税を発表した。中国側はとっくに条件を公表しており妥協しそうにないため遠からず再び決裂するだろうとは思われていたが、思ったより早かった感はあった。第4弾の米経済へのインパクトは前回の記事「米国消費者が支払う関税の話をしよう」で推定した通りであるが、(恐らく25%では米国経済が持たないとレクチャーを受けて)25%ではなく10%としているため、平均的な米国家計にとって毎年10万円程度の支出増というところである。年収500万円の家庭ならば10万円は給料の2%である。
 

貿易戦争のインパクト

 足元で中国側の態度の強さが話題になっているが、本ブログとしては貿易戦争の中国経済への打撃はもう少し評価されても良いと思っている。確かに代替しづらい品目にかかる関税第4弾は米国にも打撃を与える可能性があるが、同時に低付加価値商品は労働集約産業が作っているため雇用の頭数に与えるインパクトも大きいだろう。元より1-3期の反発以来パッとしない中国経済にとってとどめの一撃になる可能性すらある。しかし前回のGWからG20にかけての戦いを思い出してみると、全てのオブザーバーの予想を超えた中国側の賭けにも近い強気さは見事にトランプ政権の譲歩を引き出した。この事実からハト派(投降主義)が再び発言権を取り戻すのは至難の技である。トランプ政権も何度もコケにされるわけにはいかないため、これはどちらかがクラッシュしないと終わらない総力戦となる可能性がある。WW2前に米国に対して国力で圧倒的に劣っていたのは大日本帝国の指導者層の間でも常識であったが、それでも「日露戦争でも圧倒的に劣っていたがそれでも勝った」と反論されたら再反論は難しかった。それに近い形に中国の指導者層の秘密会議とやらではなっているのではないか。恐らくはGW前の決裂に猛反対した劉鶴を半分交渉担当から外して新顔の鐘山にすげ替えたのはその象徴である。不幸中の幸いというべきか、人民元の7.0防衛を早々に放棄して通貨安政策の力を借りようとしたのは賢明な判断である。

ファンダメンタルズから見た下値余地

 さて、今後このまま米株が本格的にクラッシュするのか。6月末の大阪G20後の「停戦」を受けてS&P 500は一時3,000突破を果たしたが、新たなニュースとして「それがなくなった」ため、アイランドリバーサルとは言えないにしろ、その2950より上の島(冒頭のチャートの二つ目の赤枠)は間違っていたということになる。またその間に一時7月の50bp利下げも織り込まれていたがそんな物はなかった。従って関税第4弾の撤廃がないまま2900台後半がまた来ることがあれば売り場となる。一方、下値余地はというと、5月30日から6月7日に撤回するまでの「メキシコ関税を織り込んでいた期間」の再来は来ていないが、代わりに中国の人民元切下げによる全面対抗の可能性が見えている。従ってメキシコ関税ショックと同水準にあたる2800近辺を試す場面があっても驚くべきではない。

ポジショニング

IMG_3553
VIX
 USテックセクターへのショートポジション(上図)は2016年以来の低水準となっており、ショートカバーの大半は済んでいるように見える。勘違いの島を個人投資家、リアルマネーが徹底的に無視した一方、人間より賢い()とされるトレンドフォロワー系(システマティック系)が一人フルロングで暴れ回っていたというポジショニングは前回の記事から変わっていなさそうだ。ところが、このロボット達の退路は貿易戦争と共に増す不確実性によって塞がれつつある。VIXショック前と違って株の債券の逆相関が何とか続いているとはいえ、もしVIXが力技で20〜22まで押し上げられたら今度こそ押すな押すなとなるだろう。またもしシステムの中にその他大勢に混ざって「もし人民元が7.0を突破したらエクスポージャー縮小」といった自爆スイッチが混ざっていたらVIXの上昇を待つまでもない。日柄が経つまでの安易な押し目買いは危険に見えて仕方がない。もちろん、長期的にはどこかでは押し目買いで突撃したいところではあるが、水準が水準なだけにエントリーポイントにはこだわりたい。

関連記事

S&P 500はひたすらクラッシュ雨乞い
S&P 500が利下げ織込みすぎから押すな押すなに
S&P 500が結局浮力に負けてしまうか
 
利下げサイクル開始でドル安に備える局面が近付くか
S&P 500が意外な粘り強さを見せる 
下抜けてもやはり煮え切らないS&P 500 

新高値に売りありS&P 500の煮え切らない調整

S&P 500の新高値に売りありの法則
 
Fedハト化でもS&P 500の勢いが止まる 
S&P 500が最後の関門を突破
S&P 500がH&S右肩近くまで一気呵成 
S&P 500の重要な水準が向こうからやって来る
S&P 500ここから上はさすがに前途多難
ようやく貿易戦争の悪影響の織り込みが終わる
 S&P 500のテクニカルの続き 
全てがかかっているS&P 500の右肩 
米株指数を純粋なテクニカルで見る  

この記事は投資行動を推奨するものではありません。