昨年の2y-5y、今年3月の3M-10yに続いて、8/14には米国債の2年と10年金利が逆転して逆イールドになった(インバートした)。長短金利の逆転は景気拡大終盤に発生しがちであり、金融政策対比で景気の先行きが弱いという市場参加者の見通しを表している。またこれまでもリセッションの2年ほど前に長短金利の逆転が見られることが多く、あまり縁起のよくないシグナルである。WSJの記事は「ニューヨーク連銀のモデルによると、7月末時点のデータでは、今後1年以内にリセッション入りする確率は32%となっている。これは2008年のリセッション以降で最も高く、1990年のリセッション前とほぼ同水準だ。これほど高い確率でもリセッション入りしなかったのは唯一、1960年代終盤のことで、当時は今と同様にインフレ率が低迷し、失業率も低かった」としている。
なおこの記事は頑張って「一部がインバートしたV字カーブと完全にインバートしたカーブ」の間に区別を付けようとしているが、やりすぎると都合の良い結論を出すための後出しになってしまう。シグナルはシンプルである方が良いのである。たとえば、カーブの形状で細分化するならこのS&P 500のチャートに「最も短期の米国債が最も利回りが高かった日」をプロットした図などはいかがだろうか。
閑話休題。本ブログでは2018年秋の「米金利の長短逆転とリセッションの関係」「長短金利逆転=景気後退の「今回は違う」」より米金利の長短逆転に注目してきた。金利が長短逆転するのは市場参加者が「今後リセッションなどで中央銀行は政策金利を引き下げ続ける」ことを織り込んでいるに他ならないが、この時に取り上げたのは「FedのQEによって長期国債が吸い上げられているため、他にデュレーションリスクを積む必要がある主体がいる場合、彼らは特にリセッションをなると思っていなくても長期国債を低金利で買わざるを得ない(タームプレミアムがマイナスになる)場合もある」という議論である。この時は「債券から株に浮気していた年金基金のファンディング・レシオ復元の動き」を取り上げていたが、今も状況は大して変わっていない。
むしろ、QEでマイナスのタームプレミアムについてガタガタ言われている米国から離れてグローバルで見てみると逆イールドの国はどんどん増えており、FedのQEのせいにして「今回は違う」と言い張るのは段々と難しくなっている。もちろん金融危機後はどこの中央銀行も多かれ少なかれQE的な施策を取ってきたため、マイナスのタームプレミアムがグローバルで広がっていると言い張ることもできるだろう。
ところで、だいぶ前に3M-10yもインバートしていたし、果たして2y-10yのインバートにはスペシャルな意味があるだろうかという議論もできる。本ブログとしてはあえて意味付けして整理するのであれば、3M-10yがインバート(今の政策金利が高すぎる)して2y-10yがインバートしない(2年以内にFedが利下げでリセッション回避)ならリセッション回避という解釈になってきたのではないかと思う。しかしここに来て(コアCPIも特段弱くない中で)Fedがアキレスに追われる亀のように際限なく利下げしていくわけにもいかないため、2y-10yインバートではどんどん強まる先行き不安(10年金利低下)に対して利下げ(2年金利低下)が追い付かずリセッション突入、という解釈に傾いてきたように見える。
いずれにしても、とあるメジャーな年限がインバートするたびに株は暴落してきた。昨年12月の2y-5yインバート、今年3月の3M-10yインバートではその都度米株が売られた。2y-10yインバートを見たら流石に米株の下落に備えていないといけなかった。その後2回目の2y-10yインバートでも米株は瞬間的に売られており、おそらく機械的に両者を連動させる人間より賢いファンドによって、インバートは株式市場の頭上に吊るされたダモクレスの剣となっている。長期的に見ると過去のインバートからリセッション入りまでしばらく時間があり、インバート直後の米株のパフォーマンスも別に悪くはないはずだが、今回は株式投資家はさすがに学習して神経質となっている。
足元の米国の経済指標は消費と雇用を中心に堅調であるため、経済の実態を無視して2y-10yの占いに没頭するエコノミストは上の図などで揶揄されがちである。しかし、消費やら雇用やらのActual Dataは所詮遅行指標であるため、(ISMやグローバルPMIならともかく)それらをインバート占いを否定する根拠としては使いづらい。
BoAMLによると、明らかに逆イールドを受けて「Recession」のGoogle検索件数が急騰しておりリーマンショック以来の高さとなっている。インバートがこれから消費者や経営者のセンチメントに影を落とすこともあるだろう。
結局ここは王道に立ち戻るべきであるように見える。10年金利がISMやグローバルPMIの代理変数でしかない以上、米国の景気の将来を占いたいのであれば2-10yであれこれ考え悩むよりも愚直にISMやグローバルPMIをモニターすべきではないか。
長短金利逆転=景気後退の「今回は違う」
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